農地の相続
1.相続される権利
(1)所有権(農地法2V)
(2)小作権(同法2U、3)。具体的には地上権、永小作権、不動産質種、賃借権がある。
使用借権は借主の死亡によって消滅するので(民599)、相続後も存続するとの特約がなければ終了する。
一時使用権(農地68)は、使用者の申込の相当性を判断して国が条件付に認める権利であり個人的色彩の強いものであるから、相続されないという見解がある(栃木県弁護士会・新版農地の法律実務(昭和63)P376)。
(1)相続による承継
知事や農業委員会の許可なくして当然に認められる(農地3T本文但書、F)。
(2)遺贈
@ 包括遺贈(民990)は相続と同じく包括承継だから、農業委員会等の許可なくしてみとめられる(農地法3T本文但書I、農地法施行規則3D)。
5.非農業者による農地相続
農業基本法16条の趣旨からも農業後継者が農地を相続すべきだが、後継者がいないなど非農業者が相続せざるえない場合がある。
(1)被相続人の自作地であった場合
・相続人が農業を始めれば問題はない。
・相続人が農業をせず農地以外に転用するときなどは、通常と同じく農地法3
条ないし5条の規制による。しかし、不在地主として農地利用することはできず原則として国に買収される(農地法6〜14)。
(2)被相続人が第三者に小作地として利用させていた場合
この場合は農地法6条の例外として、その小作地の面積が6条1項2号の別表面積をこえても(ただし、同法7条1項1号ではこの面積をこえてはならない)、不在地主となってもその小作地を所有することができる。
(3)農地の小作権を相続した場合
相続人が農業に従事しないときは、地主からの小作権解消事由となる(農地法20V)
以下は適当なページに振り分ける事。
2.農地法上、前記権利の承継が認められるか?
A 特定遺贈は、相続人が受贈者の場合は、農業委員会等の許可は不要であるというのが判例だが(高松高判昭41.10.21下民集17−9・10−997)、登記実務は許可を要するとしている(昭43.3.2民事局回答)。
相続人以外の人に対する特定遺贈では許可が必要である〈最判昭30.9.13民集9−10−1262)。
B 死因贈与は、贈与契約の一種であり(民554)、包括遺贈の準用がないから農業委員会などの許可を要するという見解がある(前掲一栃木県弁護士会P377)。
3.農地の評価
時価ではなく収益価格によって算定するという見解と、近隣が宅地化されている農地は宅地見込価格によるという見解(東京高決昭39.5.7家月16−1ト129)がある。
前掲栃木県弁護士会P385は、市衛化区域内の農地と市術化調整区域内の農地とでは資産価値が異なるから後者の見解が妥当であるとする。
4.農地の遺産分割
(1)民法上は均分相続が原則であるが、農業経営の零細化を防止するために農業の承継者に農地を取得させるのが望ましい(農業基本法16)。
この見地から、以下の分割方法がある。
@ 農業の承継者に農地を取得させ、その他の遺産は非農業者に取得させ、それでも前者の取得分が多いときは債権負担(家審規109)によって是正するという方法による審判例が多い(東京高決昭37.4.13 家月14−1ト115、福島家審昭37・4・20 家月14−10−170、長野家上田支審昭40.1.26 家月17−3−58、大阪高決昭51.2.19 家月28−10−51)。
A 農地は共同所有にするが農業経営はそのうち1人に承継させる。承継者は他の相続人に配当をする。将来承継者が他の相続人の持分を買いとればよい(神戸家尼崎支審昭38・8・22 家月16−1−129、鳥取家審昭39.3.8 家月16−7−58)。
B 農地を各相続人の単独所有に分割するが、農業経営はそのうちの1人が行い、他の相続人に対して小作料を支払う。
(2)農地細分化を防止するための生前対策
@ 生前贈与
被相続人が農業後継者に農地等を一括贈与したときは税法上の特典があるうえ(措置法70の4〜70の6)、贈与者には年金が給付されるなど(農業者年金基金法41−44)円滑な承継がすすむよう配慮されている。
ただし、生前贈与が遺留分減殺請求の対象になることは通常の相続と変わらない。
A 遺贈、相続分の指定、分割法の指定、遺留分の放索