遺産の範囲に関する争い

特定の財産が被相続人の遺産に属するものであるか否かにつき、共同相続人間で争いになる場合がある。
この場合、調停・審判で共同相続人間に遺産の範囲に関して合意が成立すれば、遺産の範囲についての和解も含んで分割の協議が調ったものと解せられるから問題はない。
しかし、遺産の範囲に関する争いのために共同相続人間に分割の協議が調わない場合については何らかの方法で、特定の財産が遺産分割の対象となる遺産であるか否かを確定することが必要になる。








遺産の範囲に関して合意が成立しなくとも審判のできるか?
つまり、家庭裁判所は遺産の範囲を認定して協議に代わる審判をなし得るか。

最決昭41.3.2 民集20−3−360)・・・・・最高裁は「遺産分割の請求、したがって、これに関する審判は、相続権、相続財産等の存在を前提としてなされるものであり、それらはいずれも実体上の権利関係であるから、その存否を終局的に確定するには、訴訟事項として対審公開の判決手続によらなければならない。しかし、それであるからといって家庭裁判所は、かかる前提たる法律関係につき当事者間に争いがあるときは、常に民事訴訟による判決の確定をまってはじめて遺産分割の審判をなすべきものであるというのではなく、審判手続において右前提事項の存否を審理判断したうえで分割の処分を行うことは少しも差支えないというべきである。ただし、審判手続においてした右前提事項に関する判断には既判力が生じないから、これを争う当事者は、別に民事訴訟を提起して右前提たる権利関係の確定を求めることをなんら妨げられるものではなく、そして、その結果、判決によって右前提 たる権利の存在が否定されれば、分割の審判もその限度において効力を失うに至るものと解されるからである。このように、右前提事項の存否を審判手続によって決定してもそのことは民事訴訟による通常の裁判を受ける途を閉ざすことを意味しないから、憲法32条、82条に違反するものではない。」という決定を下した。

このように、遺産の範囲についての家庭裁判所の審判の判断は既刊力を有しないことから、後の民事訴訟における裁判で、当該財産が遺産に帰属するかについて異なった判断が示される可能性もある。

従って、家庭裁判所の実務では、分割の前提問題について争いが有する場合に調停が成立しなかった場合には取り下げて訴訟手続にてこの点を確定するよう勧告する例が多い(取り下げをせずに、前提問題に関する裁判が終了するまで家裁の手続を保留しておくことを望んでも、裁判所は強く取り下げを求めてくるのが一般的である)。






調停・審判で範囲について合意が成立せず、
調停・審判の裁判所から取り下げを求められた場合。。。。
民事訴訟で範囲か否か決するしかない。



どのような裁判を起こすのか?(共有持分権確認訴訟?遺産確認の訴え?)

例えば、ある不動産が遺産に属するかが問題となる場合、相続人としては、その不動産につき自己の法定相続分に応じた共有持分を有することの確認を求める訴えを提起することが通常であった。
ところが、共有持分権確認訴訟は、原告が勝訴の確定判決を得ても、原告がその財産について共有持分を有することが既判力をもって確定されるだけで、その取得原因が被相続人からの相続であることまでは確定されない。したがって、共同相続人間における特定の財産の遺産帰属性についての争いを完全に解決し得る訴えとして、遺産確認の訴えが必要である。

最高裁も以下のように判示してこの訴えの適法性を認めた(最判昭和61・3・13 民集40−2−389)。

「遺産確認の訴えは、右のような共有持分の割合は問題にせず、端的に、当該財産が現に被相続人の遺産に属すること、換言すれば、当該財産が現に共同相続人による遺産分割前の共有関係にあることの確認を求める訴えであって、その原告勝訴の確定判決は当該財産が遺産分割の対象たる財産であることを既判力をもって確定し、したがって、これに続く遺産分割審判の手続においておよびその審判の確定後に当該財産の遺産帰属性を争うことを許さず、もって、原告の前記意思に適った紛争の解決を図ることができるところであるから、かかる訴えは適法というべきである。」


ようするに、遺産確認の訴えの方がイイよ!!

遺産確認の訴えとは・・・性質
1 遺産確認の訴えは、共同相続人全員が当事者として関与し、その間で合一にのみ確定することを要するいわゆる固有必要的共同訴訟である(最判平元3.28民集43−3−167)。つまり、共同相続人全員が当事者として関与しなければダメです。

2 共同相続人以外の第三者に対する遺産確認の訴えは、確認の利益を欠き不適法である(東京地判昭62.2.23 判時1264−90)。この判決は、遺産確認の訴えの適法性の要件として次のように判示した。
    T原被告が共同相続人であって、共同相続人間において特定財産が被相続人の遺産に属するか否かが争われている場合であって、
    U右財産が遺産に属するときは、原告もこれについて相続分に応じた共有持分を有する場合に限られる。