生命侵害による損害賠償請求権
 @ 財産的利益侵害による損害賠償請求権
  人は死亡により権利主体ではなくなることから、被害者が死亡したことによる逸失利益の損害賠償請求権を取得することはありえず、従ってそれが相続されることもありえないという理論的問題があり、相続性の有無については争われた。
  判例は、人の受傷と死亡の間には観念上時間的間隔があり、その時に被相続人が損害賠償請求権を取得し、それが相続されるとしている(大判大15.2.16民集5−150、大判昭3.3.10 民集7−152)。
  学説では、被害者の死亡により、遺族が揖書賠償請求権を原始的に取得するとする見解もある。
  いずれにせよ、結論的には損害賠償請求権を相続人が有することについては争いはない。

 A 慰謝料請求権
  慰謝料請求権については@の場合の問題のほか、慰謝料請求権は被害者に一身専属的な権利ではないかとの問題があり、判例は、かつては被害者が請求の意思表示をすれば一般の金銭債権に転化し相続の対象になるとしていたが(大判昭2・5・30 新聞2702−5)、その後慰謝料請求権といえども単純な金銭債権であり、被害者は損害の発生と同時に慰謝料請求権を取得し、被害者の具体的な意思表示がなくとも相続人は当然に慰謝料請求権を相続するとし、相続性を肯定した(最判昭42.11.1民集21サ2249)。
  しかし、民法711条が遺族固有の慰謝料請求権を認めていること及び被害者が死亡を原因とする慰謝料請求権を生前に取得することは理論的に矛盾している等の理由から反対説も有力である。
  いずれにせよ、結論的に慰謝料請求権を相続人が有することについては争いはない。