★相続分の譲渡

(1)要件
  相続分の譲渡は遺産分割の前までになすことを要するが、何らの要式も必要としない。
  ただし、他の共同相続人に対しては、債権譲渡の場合の民法467条1項を準用して、相続分の譲渡の通知をしなければこれに対抗できない、とする説も有力である。

(2)効果

  譲渡人は譲渡した限度で共同相続人たる立場から離脱し、譲受人は相続財産の管理、遺産分割の請求、遺産分割への参加ができる。
  ただし、相続債務については対内関係では、譲渡人から譲受人に移転するが、対外関係では、両者が併存的に債務引受するとみることになる(注釈民法27一295)。


★相続分取戻
共同相続人の1人は、遺産分割までの間に相続分を第三者へ譲渡することができる。
しかし、赤の他人が参加してくると紛争の可能性も大きくなる。無関係の第三者の相続への介入による紛争の防止のため、他の共同相続人に第三者に譲渡された相続分の取戻が認められる(民605T、U)。

(1)取戻権の法的性格
  相続分の取戻権は形成権である(相手方の承諾を必要としない)。
(2)要件
  相続分が他の共同相続人の包括受遺者以外の者に譲渡されたこと。
  相続と無関係な第三者の排除を目的とする制度だからである。
  譲渡があったときから1月以内になすこと。この期間は除斥期間である。
  共同相続人の1人が単独でも行使可。
(3)価額及び費用の償還
他の共同相続人が取戻権を行使するには、当該相続分の価格および譲渡費用を償還しなければならないが、この価格は取戻権行使時とするのが通説である。仮に相続分の譲渡が無償であっても取戻権を行使するには時価の価格償還が必要とされている。
 ここに価額とは、譲受人が譲渡人に相続分譲渡の対価として支払った価額をいうのではなく、その相続分を評価する額であり、従って無償で譲受けた者に対しても、その相続分の時価を償還することを要する。





 3.相続分の譲受人
(1)遺産全体の相続分譲受人の地位
  民法は共同相続人の一人が遺産分割前に遺産全体に対して有する相続分(相続人たる地位)の第三者への譲渡を認めている(民905)。この相続分を譲り受けた第三者は相続人と同じ地位に立つことになり、相続財産の管理や遺産分割手続にも参加できることになる(東京高決昭2革・9・4高民鮒10−603)。そして、相続分の譲渡は上記の如く相続人たる地位の譲渡であって個々の遺産の権利移転ではないから対抗要件に関する規定の適用はない(同上)。