366条の9第2号の「詐術を用ひ」たとは、破産者が信用取引の相手方に対し自己が支払不能等の破産原因事実がないことを信じさせ、あるいは相手方がそのように誤信しているのを強めるために、資産もしくは収入があることを仮装するなどの積極的な欺もう手段を取った場合かもしくはこれと同視すべき場合を指すのであって、破産者が単に支払不能等の破産原因事実があることを黙秘して相手方に進んで告知しなかったことのみでは「詐術を用ひ」た場合に当たらないものと解するのが相当であり、本件抗告人の借入れは本条2号に該当しない・・・・・・・・・・・・・大阪高決平2・6・11
サラ金業者から累計100万円以上の借金をし月収約15万円であった破産者が、他社からの借金は総計64万円であり自己の月収は30万円である旨の陳述をして抗告人(サラ金業者)から借入れをした場合であっても、破産者としては借入金返済のめどがないわけではなく、ただサラ金業者の厳しい取立てにあって勤務(ホステス)の継続が困難となり自己破産申立てのやむなきに至ったこと、抗告人も破産者の借入金に関する陳述を必ずしも額面どおりに信用したものでないことに徴すると、これをもって直ちに本条2号に該当する事実があったとは言い難い・・・・・・・・・大阪高決59・9・20
自営業者であるのにサラリーマンだと言って借りた(地裁では不免責許可の決定がなされた)・・・・しかし、貸主が信用調査をしなかったことなどを理由に高等裁判所は地裁の決定を取消した・・・・大阪高決昭和58・10・3 判タ513−179
返済不能の事実を隠匿し、あるいは他業者から借り入れの有無について質問された時に「数店ある」とだけ答え、また借り入れ、保証に夫の名義を無断借用した場合に、一応不許可事由に該当するとしながら、諸事情を考慮し、裁量で免責を許可した・・・・札幌高決昭和61・3・28 判タ601−72
購入物品を破産申立て後に債権者に返送していること、借り入れの際の詐術は積極的なものではなかったこと、異議を述べている債権者は一人にとどまっていること、更生の見通しが十分に期待できることの他、原審における免責不許可決定の後父親が債権者に20%強の額を平等に分配していることを総合考慮すると、裁量により免責を許可するのが相当である・・・・仙台高決平成5・2・9判時1467
支払不能の事実を告げず新たに行った借り入れは366条の9第2号にいう「詐術」にあたるが、免責不許可事由の存在理由に照らすと、不許可事由があるときでも、破産者の不誠実性が顕著でなく、かつ更生の見込みがある等の事情があるときは、裁量により許可できる・・・大阪高決平成元・8・2 判タ714−249
以下は、免責が認められたかったケース
他社からの借入額や毎月の返済額について虚偽の事実を申告した詐術の態様が作為的な欺罔行為であり、かつ借入と破産申立がきわめて接近している場合には、軽微な事由とはいえず裁量により免責するのは相当でない・・・・福岡高決平成5・7・5 判時1478
サラ金業者への借受申込みに際し、収入等を偽ったことのある破産者に対し、免責が不許可とされた事例・・・大阪高決昭和58年11月4日 判タ516−124