「行方不明」
1990.12

 行方不明

タイトル文字をクリックすると、約1分間、音源が聴けます。よろしく。



〜キャラメル〜

泣きながら 家路をたどる
夕暮れ色の頬
ふと立ち止まる 川べりの道
ポケットからキャラメルを
取り出して 口に放り込むと
タタタタッと 駆け出す


     * * *


〜君が風邪をひいているから〜

君が風邪をひいているから 今日はここでサヨナラ
自分の家の 暖かい布団で ゆっくりおやすみ
ほんとなら 僕のアパートの部屋に
招き入れたいのだけれども
そして 君の風邪が こじれたりしたら困るから
だって僕は 君を たぶん裸に しちゃうだろうからね

ほんとなら 今夜一晩中 君の
囁き声に 酔っていたいけど
つまった鼻と 枯れた喉じゃ いまいち 気乗りしないし
それに 君の風邪が 僕に移ったりしたら やだからね

君が風邪をひいているから 今日はここでサヨナラ
ぐっすり眠れば 夢の中に
忍び込んであげるから… オヤスミ…


     * * *


〜PASCAL〜

君の入れた紅茶は ね なんて美味しいものかしら
今まで 紅茶なんぞにね 見向きもしなかったけれど
こうして君と 炬燵にあたりながら
啜る紅茶と PASCALのケーキ
PASCALのケーキも 君の ね
久々の当たりだったよね

君の言ったとおりだ ね 今日は朝から雪が降る
なんだか わくわくしてくるね おもてが白くなってくだけで
けれども 明日の昼頃までには
すっかり溶けてしまうだなんて
天気予報ってやつは ね
なんて無情なものかしら

 …話は戻るけど…

君の入れた紅茶は ね なんて美味しいものかしら
今まで 紅茶なんぞにね 見向きもしなかったけれど
こうして君と 炬燵にあたりながら
啜る紅茶と PASCALのケーキ
バナナのムースなんてのは ね
ほんとに久々の当たりだねえ


       * * *


〜のびのび〜

炬燵を出さない 今年の冬
ほんとに狭い この部屋でも
君と のびのび していたいんだ
君と のびのび していたいんだ


       * * *


〜6月、君は何を想う〜

青い紫陽花が 梅雨に濡れている
疲れた鯉のぼりは 滝ものぼれない
6月 心なくとも 焦る
6月 君は 何を想う

白い菖蒲が 梅雨に濡れている
野良犬も野良猫も ずぶ濡れで走る
6月 指の先から 腐る
6月 君は 何を想う

重たい雲と 湿った空気の中で
僕は 退屈してる
蒸し暑くて 苛立ってる
夏の初めの頃


       * * *


〜カッキーが泣く〜

物足りないんだ いつだって こうして 見つめてばかりで
物足りないんだ 話してても 笑わせるのに 精いっぱいで
どうすれば 振り向いてくれる
どう言えば わかってもらえる
どう切り出そう この気持ち
どうしようもないんだ

手に着かないんだ いつだって 頭から君が離れない
手に着かないんだ なんとかして 君を よろこばせたい

君のせい このままじゃ どうにかなりそう
早く本当のことを 言わなきゃ
時間が無いんだろ

わかっているんだ 僕なんて 年上の君から見れば
物足りないんだ それでも 君を よろこばせたい
なんとかして 君を よろこばせたい


       * * *


〜ずるずる〜

なにも無理しなくても 調子が悪けりゃ
風邪くらいひくさ
だから無理などしないで 風邪をひいたら
家でごろごろ

いくらハナをかんでも きりがないのさ
鼻水ずるずる
いったい どれだけの鼻水が 
鼻の奥にたまってるの

風邪をひいたら あの子に電話を入れて
優しく 看病してもらいたい
美味しいお粥を 作ってくれるね
…なんてダイヤル回すほど
みっとも悪いことは できるわけない

誰かにうつしてしまえば えてして
風邪など治るさ
だけど あのこに移すくらいなら
このまま 鼻水ずるずる


       * * *


〜行方不明〜

半年に一度 身を隠して
森林浴 花になる
俗世間の垢 洗い落とす

三年に一度 髭のばして
大都会 公園になる
俗世間の裏 なめてかかる

十年に一度 名前忘れて
君の庭 犬になる
俗世間の夜 穴に埋める


       * * *


〜今日の糧〜

君を心配してる 僕の喜び
君を思いやる 僕の快感が
今日一日の糧 毎日の糧

君を怒らせる 僕の喜び
君を悲しませる 僕の快感が
今日一日の糧 毎日の糧

手紙を書こう 僕が素敵になれる
電話をしよう 僕が可愛くなれる
お酒を飲もう 僕が大人になれる
愛し合おう 僕は子供になれる

君を突き放す 僕の喜び
君を引き戻す 僕の快感が
今日一日の糧 毎日の糧

手紙を書こう 電話をしよう
お酒を飲もう 愛し合おう
喧嘩をしよう 罵り合おう
キスをしよう 抱きしめよう


       * * *


〜春の宵〜

星のきれいな 明るい夜に
道の脇の塀の上から
こぼれるように 咲きほころんだ
梅の花の下をくぐって
君の肩に 手をまわしたのさ
だけど 君は笑って
先へ走って行ってしまった

まだまだ寒そうな 街灯の灯は
君の空いた 首を照らしてる
僕の部屋に 置き忘れてきた
マフラーのことを 後悔してる
もう一度 あの部屋に戻ろう
だけど 君は笑って
先へ走って行ってしまった

 「御茶ノ水から 小川町へ降りて すずらん通りを神保町に抜ける
 "さぼうる2"で ひと休み 美味しいココアと タバコを一服
 僕が吸わないことを知っていながら いつだって
 一本だけだって 気持ちよさそうに煙を吐いていた
 そんな夢を 昨日見ました」

最終バスは もう行ってしまったよ
いくら君が 大丈夫だと言ったって
いくら君が 強がったところで
ほら 髪が 首を流れるたび
震えているんじゃない

だけど 君は笑って
先へ走って行ってしまった

星のきれいな 明るい夜に…


       * * *


〜居心地〜

結局 居心地のいいところに
僕は 落ち着こう
君の肩 君の胸 君の温もりが
好きだった 僕だから
それでも素直になれなかったら
よろしく 微笑んでくれる?


夜の譜TOPへ