tohllyam'sトップ > マット・スカダー

ローレンス・ブロック著/田口俊樹訳

 私は,自分の好きなものを他人に紹介する際,あまり情報を与えないようにしています。 熱心に薦めるあまり,先入観や過度の期待を抱かせてしまい,結果, 『そんなに素晴らしいとは思わなかった』ということが何回もあったからです。
 せっかく感動を分かち合いたくて薦めるのに,これでは切な過ぎます。 皆さんも,未経験の事象には,予備知識を入れず,出来るだけニュートラルな状態で接しましょう。
 なので,このシリーズについてもあまり書きたくありません。どうぞ,自分で読んで判断してください。 そして,面白いと思ったら,次の作品を選ぶ参考にしてください。

「マット・スカダー」シリーズ(ハードカバー判は既に絶版になっているものが多いので,文庫判の発行年になっています。)
邦題/出版社(発行年) 原題(直訳)
/発表年
内容(文庫判裏表紙から)
過去からの弔鐘
 過去からの弔鐘

 二見文庫
 (1987年)
The Sins of the Fathers
(父親の罪)

1976年
大都会ニューヨークで,人々は今日も孤独に生きている。 元警官のアル中探偵への依頼は,ヴィレッジのアパートで殺された娘の過去を探ってくれというものだった。 犯人は逮捕された後,独房で自殺していた。スカダーは二人の過去を調べ始めたが,意外な真相が明らかになっていく!
冬を怖れた女
 冬を怖れた女

 二見文庫
 (1987年)
In the Midst of Death
(死の真ん中)

1976年
ニューヨーク市警の刑事ブロードフィールドは警察内部の腐敗を暴露し,同僚たちの憎悪の的となった。 折りしも,ひとりの娼婦が彼を恐喝罪で告訴。身の潔白を主張する彼はスカダーに調査を依頼した。 だが,問題の娼婦が殺害され,容疑はブロードフィールドに! 彼の苦境に警官たちが溜飲を下げる中,スカダーは単身,真相の究明に乗り出した……。
一ドル銀貨の遺言
 一ドル銀貨の遺言

 二見文庫
 (1989年)
Time to Murder and Create
(殺人と創作の時間)

1976年
たれ込み屋のスピナーが殺された。その二ヵ月ほど前,彼はスカダーに一通の封書を託していた──自分が死んだら開封して欲しいと言って。 そこに記されていたのは彼が三人の人間をゆすっていたこと,そしてその中の誰かに命を狙われていたことだった。 スカダーは殺人犯を突き止めるため,自らも恐喝者を装って三人に近づくが……。
暗闇にひと突き
 暗闇にひと突き

 ハヤカワ文庫
 (1990年)
A Stab in the Dark
(当てずっぽう)

1981年
若い女性ばかりを狙った九年前の連続刺殺事件はニューヨークを震撼させた。 犠牲者は皆,アイスピックで両眼をひと突きされていたのだ。 ブルックリンで殺されたバーバラも,当時その犠牲者の一人と考えられていた。 が,数週間前に偶然逮捕された犯人は,バーバラ殺しだけを頑強に否定し,アリバイも立証されたという。 父親から真犯人探しを依頼されたアル中探偵スカダーが,困難な調査の末に暴き出した驚くべき真相とは?
八百万の死にざま
 八百万の死にざま

 ハヤカワ文庫
 (1988年)
Eight Million Ways to Die
(死ぬための800万の方法)
1982年
キムというコールガールが,足を洗いたいので代わりにヒモと話をつけてくれという。 わたしが会ってみると,ヒモは意外にもあっさりとキムの願いを受け入れてくれた。 だが,その直後,キムがめった切りにされて殺された。わたしは真犯人探しを依頼されるが……。
聖なる酒場の挽歌
 聖なる酒場の挽歌

 二見文庫
 (1986年)
When the Sacred Ginmill Closed
(神聖な酒場が閉じた時)
1986年
十年前の夏……この当時を思い出す都度,スカダーの脳裡には二人の飲み友達のことが蘇ってくる。 裏帳簿を盗まれた酒場の店主と,女房殺害の嫌疑をかけられたセールスマン。 彼らを窮境から救うべくスカダーは調査にのりだした。が,事件は予想外に奥深かった!
慈悲深い死
 慈悲深い死

 二見文庫
 (1990年)
Out on the Cutting Edge
(最先端上の外)

1989年
酒を断ったスカダーは,安ホテルとアル中自主治療教会の集会とを往復する日々を送っていた。 ある日スカダーは,女優を志してニューヨークにやってきた娘の行方を探すように依頼される。 ホームレスとヤク中がたむろするマンハッタンの裏街を執念深く調査した末に,彼が暴いた真相とは?
墓場への切符
 墓場への切符

 二見文庫
 (1995年)
A Ticket to the Boneyard
(墓場への切符)

1990年
無免許の私立探偵スカダーは,旧知の高級娼婦エレインから突然連絡を受けた。 かつて彼女の協力を得て刑務所に送りこんだ狂気の犯罪者モットリーが,とうとう出所したという。 復讐に燃える彼の目的は,スカダーのみならずスカダーに関わった女たちを全員葬り去ることだった……。
倒錯の舞踏
 倒錯の舞踏

 二見文庫
 (1999年)
A Dance at the Slaughterhouse
(屠殺場でのダンス)

1991年
スカダーの知人がレンタルしたビデオには,意外にも現実の猟奇殺人の一部始終が収録されていた!  だが,その残虐な映像からは,犯人の正体はもとより,被害者の身元も判明しなかった。 それからしばらくしてスカダーは,偶然その犯人らしき男を目撃するが……。
10獣たちの墓
 獣たちの墓

 二見文庫
 (2001年)
A Walk among the Tombstones
(墓石の中の歩行)

1992年
麻薬密売人キーナンの魅力的な若妻フランシーンが,ブルックリンの街角で誘拐された。 キーナンは姿なき犯人の要求に応じて大金を支払う。だが,フランシーンは無惨なバラバラ死体となって送り返されてきた。 復讐を誓うキーナンの依頼を受けたスカダーは,常軌を逸した残虐な犯人を追うが……。
11死者との誓い
 死者との誓い

 二見文庫
 (2002年)
The Devil Knows You're Dead
(悪魔は死を知っている)
1993年
弁護士のグレン・ホルツマンがマンハッタンの路上で殺害された。 その直後にホームレスの男が逮捕され,事件は公式には解決する。 だが,容疑者の弟がスカダーのもとを訪れ,ほんとうに兄が殺人を犯したのか捜査を依頼してきた。 ホルツマン殺害の真相を追うスカダーのまえに,被害者の意外な素顔が浮かびあがってくる……。
12死者の長い列
 死者の長い列

 二見文庫
 (2002年)
A Long Line of Dead Men
(死んだ人の長い線)

1994年
年に一度,秘密の会を催す男たちの集まり「三十一人の会」。 はるか昔より会員の代替わりをくり返しながら,現在の顔ぶれになったのは1961年。 が,それから32年後,メンバーの半数が相次いでこの世を去っていた。 あまりに死亡率が高いことに不審を抱いた会員の依頼を受け,スカダーは調査を始めるが……。
13処刑宣告
 処刑宣告

 二見文庫
 (2005年)
Even the Wicked
(不正)

1996年
新聞の有名コラムニストに届けられた匿名の投書。 それは,法では裁けぬ“悪人”たちを“ウィル=人々の意思”の名のもとに処刑する,という殺人予告状だった。 はたしてロビイストやマフィアの首領が次々と殺害されてゆく。 スカダーは,次のターゲットとしてウィルの処刑宣告を受けた弁護士から身辺警護を依頼された。 だが対策を練ったにもかかわらず殺人は実行されてしまう……。
14皆殺し
 皆殺し

 二見文庫
 (2006年)
Everybody Dies
(誰でも死ぬ)

1998年
友人ミックの手下が,郊外の倉庫で何者かに惨殺された。 ミックの依頼をうけて,スカダーは犯人探しを請け負うことになる。 だが調査を進めるうちに,スカダーは敵の襲撃にあい,抗争に巻きこまれた周囲の人間までもが,次々に殺されていく……。 追いつめられてゆくミックとスカダー。はたしてふたりはこの戦いから生還することができるのか。 そして姿なき暗殺者の意外な正体とは──。
15死への祈り
 死への祈り

 二見文庫
 (2006年)
Hope to Die
(死への希望)

2001年
ある夜、マンハッタンに住む弁護士夫妻が惨殺された。 資産家を狙った強盗の仕業と思われた事件は、数日後に犯人たちの死体が発見されたことによって決着したかに見えたが、 スカダーは背後に更なる"第三の男"が存在しているのではという疑念を抱き、事件に潜む闇へと足を踏み入れていく。
16すべては死にゆく
 すべては死にゆく

 二見書房
 (2006年)
All the Flowers Are Dying
(すべての花は枯れる)

2005年
平穏な日々を送るスカダーの周囲に、不吉な影が忍び寄りつつあったが、 スカダーはまだ、自身に迫る悪意の正体を知るよしもなかった。 突如として猟奇的な殺人事件が発生。 4年前、NYを舞台に凄惨な連続殺人を起こした"あの男"が、戻ってきたのだ。 自分の完璧な犯行計画を打ち崩した唯一の男、スカダーに復讐の鉄槌をくだすべく……。 前作『死への祈り』からつながる、おそるべき完結篇!
17償いの報酬
 償いの報酬

 二見文庫
 (2012年)
A Drop of the Hard Stuff
(硬いものを一滴)

2011年
禁酒を始めて1年が経とうとしていた。 AAの集会に参加したスカダーは、幼なじみで犯罪常習者のジャック・エラリーに声を掛けられる。 ジャックは禁酒プログラムとして、過去に犯した罪を償う“埋め合わせ"を実践しているという。 そんな矢先、銃弾を頭部に撃ち込まれ何者かに殺されてしまう。 スカダーはジャックの遺した「埋め合わせ」リストの5人について調査を始めるが……。 『八百万の死にざま』後をノスタルジックに描いた作品。

 私がこのシリーズに初めて接したのは,5作目「八百万の死にざま」でした。その「訳者あとがき」から
事件の謎を解き,犯人を捕まえればあとは警察に任せて一件落着,といった法と秩序の内側で起こる事件は,あまりスカダーのところにはまわってこない。 彼が扱うのは解決しても法では裁くことのできない事件──法と秩序では“罪と罰”の条理性を求めることのできない事件がほとんどなのである。 (中略) スカダーというのは,“罪と罰”の条理性を求めずにはいられない男なのである。理屈でも義務でもない。 それは親しいジャンにも誰に対しても説明できない,彼自身の彼だけのコード(掟)なのである。(中略) が,これはひとつまちがえば,ひとりよがりの独断に陥る危険性がある。己れひとりを神の座に据えることにもなりかねない。 その愚からスカダーを救っているのが,彼の優しさである。弱者に対する弱者の思いやりである。

 もっとも,この解説はシリーズ全編には当てはまりません。最も大きな変化は, 6作目「聖なる酒場の挽歌」までは酒を飲んでいたスカダーが,7作目「慈悲深い死」以降は飲まなくなったことです。
 成長を続ける主人公。 生と死を見つめる視線の普遍性と説得力。 是非,素晴らしさを分かち合いましょう!

 なお,これ以外にも「泥棒バーニイ」シリーズや「殺し屋ケラー」, 同時多発テロ後のニューヨークを舞台にした「砕かれた街」など,作品多数。(2005年5月2日)

tohllyam'sトップ > マット・スカダー