合格答案作成講座〜憲法
 
本書の狙い
1 大学や大学院に入学した後や,難関資格試験の受験勉強を始めた後で,どうすればよいのか必ず迷うのが答案の書き方である。現代国語の記述式問題だというだけで,どう答えればよいのか分からない…と敬遠されがちなのに,原稿用紙で3〜4枚という長い文章でそれを答えるとなると,本当にできるようになるのかという不安があるわけである。

 では,その解決策は何かといえば,まずは典型的な問題と答えを覚えてしまうということになる。たとえば,数学でも定理や公式を学んだだけでいきなり問題が解けるようになるわけではない。教科書でも,まずは例題が載っており,それで問題の解き方,公式の使い方を覚え,後は似た解き方をする練習問題で解き方を習得する。この繰り返しで解ける問題の和をある程度解いてからでなければ,未知の問題を解けるようにはならない。

 無から有は生まれない。未知の問題を解くには,結局のところ他の問題の解き方を基に,その発想の仕方や技術を組み合わせなければならない。結局,未知の問題を解けるようになるまでには,定型的な問題の解き方を覚えるということの積み重ねが絶対に必要なのである。

 論文も同じで,いきなり論文の答案は書けるようにはならない。同じように典型的な問題の解き方を各科目ごとに十分な数だけマスターして初めて解けるようになるのである。そのためには,最初は法学というよりも法律の問題を暗記と理解しなければならないのである。

 本当に難しい問題を解くための技術を全公開したものとして,拙著「合格論文機械的作成法」がある。ここでは,上のようにして覚えた知識を未知の問題とどう結びつければよいのかとか,どう使いこなせばよいのかという技術が書いてある。しかし,この技術が生かせるのも,基礎体力があってのことである。頭に入っていないものは出てこない。難しい問題を解くには,論証と問題集を使って基礎体力を鍛えることと,「合格論文機械的作成法」にある技術を問題に適用して技術を条件反射的に使いこなせるようにする訓練の両方が必要なのである。

 ただ,問題の答えを覚えるといっても,長い答案の全部など覚えられないから,表現が難しい部分と,文章の構成というヒントを覚えて,後はそれをきっかけにして文章を書くということにつきる。さらに,いきなり原稿用紙3〜4枚に亘る答えを身につけるということはできない。そういう方法だと,個々の論述の正確さが低下してしまう。

 ここは,法律の解釈において意見が分かれるところ(論点と呼ばれる)ごとに,自分の立場の表し方をしっかり確立しておいた方がよい。これを論証という。つまり,細かい部分の表現の正確さを高めるため,論証を読み,同じような論証が書けるように準備をするわけである。

 ただ,この論証を覚えるだけでは,十分ではない。論証を覚えるだけでは,その論証をどういう問題で書けばよいのか分からないからである。そこで,次のステップとして,問題集を使って,どういう問題でどういう論証を使うのかを学ぶ必要がある。

 というわけで,論証の中身を学ぶには論証集,論証の使い方を学ぶには問題集を使うわけである。これが従来の方法である。

2 しかし,この方法には問題がある。まず複数の教材を使うのはわずらわしい。実際には複数の教材を,あっちをみたりこっちをみたりということは無理で,ある程度論証集を頭に入れた後でなければ,問題集の答えのうちどこで論証が使われているのかということを把握するのが難しく,効率が悪い。

 それよりも,論証を学んだ直後で,その論証を使える問題がどんな問題なのかをすぐに見た方が圧倒的に効率がよいはずである。そこで生まれたのが本書である。Step1で論証を学び,Step2で,その論証がどういう問題で使うものなのかを学ぶ。さらに,より難易度が高い問題に当たるという意味で,Step3まで設けてある論証まである。Step3では,論証をそのまま書くのではなく,変形して書かなければならないような問題が取り上げてある。

 しかし,単独の論証集や,問題集として使うのに不便があるようではだめだろう。それどころか,本書は,単独の論証集や問題集よりも使いやすくなるような工夫をしている。

 まず,従来の論証集は,単なる論証の脇に注釈を付しただけのものが多かった。しかしこれでは,それぞれの論証をメリハリをつけて読むことができない。また問題との橋渡しもしにくくなる。

 そこで,すべての論証に問題の所在と議論の実益を付した。問題の所在は,鋭い問題提起をする材料にするとか,論証の背景を知ることでより深く学ぶヒントになる。議論の実益は,どういう問題でその論証を使うかということを学べる。Step2の問題を見る前に説明を聞いておいて,Step2で議論の実益の内容を確かめる感覚である。また,Step2で取り上げることができる問題の数は限られているから,Step2をこなすだけよりも,どういう問題でその論証を書くかを詳しくなることができるようにする意味もある。

 次に,従来の問題集は,不要な解説が多すぎて,どこを読み,どこが読む必要がないかという判断ができない初学者にとって勉強がしにくいものになっていた。多すぎる情報は上級者にも不要なものである。答案表現をするのに必要なだけの法律の情報があれば十分だから,基本的には法律の情報は答案だけでいいはずである。そこで,本書は,法律の解説は基本的に答案に止め,ただ答案化された表現では意味が分かりにくい部分とか,もうすこし広がりをもって情報をしっておいた方がよい部分に注釈を付した。

 法律の知識の代わりに本書に載せた情報が問題文解析である。議論の実益を受けて,その問題で,なぜその論証を書かなければいけないのかを把握するために役立つ。Step1とのつながりを強く意識してあるわけである。そもそも受験生が問題を解く場合に困るのは,問題文を読んだ時に,どの語に着眼して書くべき情報を思いつくのか,どこを突破口にするのかが分からないということである。これを解説しなければ,それは問題の解説とはいえないが,そういう情報をきちんと載せてある問題集は大変少ない。本書はそういう受験生が知りたい情報を盛り込むことに勤めた。

 最後にもう一つの工夫を。問題集を使って知識を覚えるという方法は,知識や論点の網羅性を欠くのではないかという不安を抱く受験生が多い。そこで,そのような不安を払拭するため,発展編を設けた。ここでは,より難しい論点についての論証と,注釈を載せた。Step1・2の内容を理解していれば,その発展的内容として論証を読めば理解してもらえると考えたので,解説は省いた。発展編の内容は出題可能性が低いから,あまり勉強をするのに時間をかけないように…という配慮もそこにある。

3 本書では,以上のような配慮をすることで,最高に難しい法学の応用的な問題を解くことと,基本的な知識・講義との橋渡しを隙なくすることができるようになるように務めた。ぜひ,本書を利用して,合格答案が書けるようになるようにみっちり訓練をしてもらいたい。
 
本書の使い方
1 まずは,前から順番に読む。本書の狙いでも書いたように,答案はいきなり書けるようにならない。まずはある程度解ける問題のストックを作らないと自力で問題が解けるようにはならない。したがって,無駄な努力をするのはやめ,説明・論証・問題と解説・答案を順に読んでいただきたい。少々説明に重なりがあるところもあるが,これは前から順に説明を読むだけで重要な内容が繰り返し触れることができるようにして,自然に頭にすり込むことができるようにしたためである。

 予備校の入門講座を受講した後,講義を受けた範囲のみ講座のレジュメの復習をするのではなく,本書で復習をする。答案練習会を受ける前に,出題範囲だけ読む…というように,予備校の講座をペースメーカーにして少しずつ読みすすむようにすれば無理なく最後まで読了するだろう。

2 もちろん,論証の部分と問題集の部分を独立させて学んでもよい。つまり,答案練習会を受ける直前や本試験を受ける直前で時間がない場合は,論証のみ集中的に読み,細かな表現の質を高める。問題の部分のみ利用して,答案構成をして,自分で答え合わせをしてもよい。記憶と理解のためには,単に眺めるだけではなく,思い返す訓練をした方がよいことは間違いない。本書を読了した後は,答案構成をすることで,その問題で書くべき内容をきちんと思い出すことができるかどうかという手続を踏んで,内容をしっかり体にたたき込むようにしてほしい。その際には,もちろん問題文を読み,それをきっかけに論じるべきことを思い出せれば十分である。その問題が出題された場合に自分ができることはやって構わない。