英国ミステリーとは

 ”英国ミステリー”を厳密に定義するとなると大変です。
 まず、”英国”の定義からして困難を極めます。でも、本リストはしょせん個人的なものに過ぎませんので、独断で”英国”を「イギリスおよびアイルランドに住んでいる人の書いた作品または版権がイギリスおよびアイルランドにあると思われる作品」と定義しました。したがって英国生れの作家であれば誰でも含めるというわけではありませんが、その後外国に移住して作品を発表した人でも作品が個人的に英国ミステリーらしい雰囲気を持っていると思えれば、(例えばヘレン・マッキネスなど)の作品はリストに含めています。またポーラ・ゴズリングは逆にアメリカからイギリスへ移住して作品を発表しているので、彼女の作品は当然リストに入れています。さらに一般にアイルランド人作家の作品は英文学作品に含めることが多いので、ここではアイルランドの作家も含めています。
 灰色的な作家については以下のように判断しています。
  • ネヴィル・シュートは、一般にオーストラリアの作家と言われているので、英国で出版された作品のみをリストアップする。
  • ミステリー界の巨匠J・D・カーは、リファレンスでは以前より英米作家となっているが、ここではすべての作品を含める。私の好みではないとはいえ、カーの作品を無視できないからである。
  • カーと似たような作家にフィリップ・マクドナルドがいるが、同様にアメリカに移住した後の作品もすべて含める。
  • ナイオ・マーシュは厳密にはニュージーランド人作家だが、ほとんどの作品が英国から出版されていると思われるため、彼女の作品はすべて含める。
  • ジェフリー・ジェンキンスは、南アフリカに住んでいながらイギリスから本を出している(と思われる?)ので、当然含まれる。
  • ジェラルド・カーシュの作品はアメリカ的雰囲気のものが多いが、一般には英国作家と呼ばれているので含める。
  • ポーラ・ゴズリング、マイケル・Z・リューインはいつ英国に移住したかよくわからないが、現在はイギリスで生活しているのですべての作品を含める。
  • パトリック・マグラアは第一短編集『血のささやき、水のつぶやき』を出版した頃はアメリカに住んでいたようだが(現在は知らない)、生れてから大学卒業までは英国で生活し、小説の内容もいかにも英国小説らしいので、当然含めている。
  • 欧州を拠点に活動してしていたパトリシア・ハイスミスは、英国での評価は高いものの(そしてCWAの会員でもあったらしいが)、英国に住んでいたかどうか不明なため含めていない。
  • 『ロンドン・ノワール』の作家紹介によれば、アンドリュー・クラヴァン(別名義キース・ピータースン)は現在ロンドンに在住しているそうだ。永久移住かどうかしらないし、作品の雰囲気はアメリカ的なので当面はリストには入れないことにする。
  • ジョン・スラディックは米国人だが、主に英国で活躍しているそうなので、ミステリー作品のみ追加する(2006.1.17)。
  • ダグラス・ケネディはアメリカ人で、作風もアメリカ人好みのものだが、ロンドン在住ということなので、リストに追加することにした(2006.8.9)
  • ジャック・トレイシー・シリーズで有名なリー・チャイルドは生まれは英国だが、アメリカ人女性と結婚し、現在ではニューヨーク市郊外に住んでいるそうだ。ただし英国的な風味が感じられるので敢えてカットはしていない(2014.1.17)
英国作家であるかどうかの情報は、主として訳者後書きや解説によりましたが、これが間違っている場合もありました(例えば『A−10奪還チーム出動せよ』のS・L・トンプスン)。一応のチェックはしていますが、本リストにもある程度間違いが含まれているはずです。始めから謝っておきます。
 当初は”英国”を”英連邦”と拡大解釈しようとも思ったのですが、カーター・ブラウンの作品を全作読む気はしないので、これはあっさり諦めました。

 ”英国”の定義よりさらにやっかいなのは”ミステリー”の定義です。江戸川乱歩の有名な定義を始め、いくつかの定義がありますが、1980年代(ちょうど「EQ」誌でチェックリストを担当した頃)より、ミステリーの拡散は一段と激しくなってきました。面白い小説はすべてミステリーといえなくもない状況になってきました。
 そこで、ここではミステリーを以下のように考えることにしました。
  • ミステリーを広く捉え、謎解き小説、警察小説、サスペンス小説だけでなく、スパイ・国際陰謀小説、冒険小説、怪奇(ホラー)小説、ゴシック・ロマンスまでも含むこととする。
  • つまりミステリーの始まりはポーの「モルグ街の殺人」ではなく、A・ヒュービンと同様に1749年に出版されたウォルポールの『オトラント城奇譚』とする。
 一般論は以上ですが、個々の作品の取捨選択は、私の好み(気分?)で決めています。
  • 悪魔や天使が登場する話は苦手なので、幻想(ファンタジー)小説は少数の例外を除いてはリストに入れていない。
  • 海洋冒険小説は当然対象としたが、海が好きでないこともあり、あまり読んでいない。単なる海洋小説との区別もつきかねる。1980年代以降の未読の海洋冒険小説らしき作品はリストの末尾に集めた(海洋冒険作家の戦記物も一部入っている)。ただしC・S・フォレスターの作品だけは昔からかなり読んでいたので、他の作家と同じ扱いとする。
  • ミステリー作家が書いたSF的な作品(例えばP・D・ジェイムズの『人類の子供たち』など)は積極的に含める。逆にSF作家の書いたミステリー的な作品は、かなりミステリー的なものしか含めない。
  • ハーレクィンやサンリオのロマンスものは、一、ニの例外を除いて含めていない。このためハーレクインから出ているシャーロット・ラムの作品はすべて除いたが、二見書房から出ているラムの作品はすべて含めた。
  • いわゆる純文学系の作家の作品はミステリー的であるならば、積極的にミステリーの範疇にいれた。例えばモームやグリーンの諸作、バイヤットの『抱擁』などもミステリーとした。
  • ミステリー劇の台本は、たとえクリスティのものでもすべて除いた。台本だけの評価はあまり好ましいと思われないからである(クリスティ以外の情報も持っていないし……)。
  • 児童文学、ヤングアダルト物などはすべて除いている。C・D・ルイスの名作『オタバリの少年探偵たち』を除くと、ほとんど読んでいないからである。
  • 英国作家かどうかはっきりしない場合、ミステリーかどうかはっきりしない場合は、読んだ雰囲気をもとに独断で決めている。
 このリストは時間をかけて作っていますが、しょせん一人のミステリー好きが趣味で作ったものです。うっかりミスや明らかな間違いがあると思いますし、抜けている作品もあるはずです。リストについて情報提供(修正や追加など)していただける方はここまでご連絡いただければ幸いです。

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