邦題 『自転車に乗った警視』
原作者 ティモシー・ウィリアムズ
原題 Converging Parallels(1982)
訳者 青木久恵
出版社 文藝春秋
出版年 1984/2/25
面白度 ★★★
主人公 公安警察の警視トロッティ。北イタリアのポー川沿いの中都市に住む。
事件 この都市で少女が誘拐され、娼婦のバラバラ死体が川の中から見つかった。トロッティは自転車に乗って捜査を続けるが、少女は無事に戻ってきたものの、なぜか捜査に圧力がかかり始めた。背後に政治的なものがありそうだ……。
背景 元首相モロの暗殺にゆれるイタリアを舞台にした警察小説。イタリアの風俗、風景、人間はうまく描かれている。これがイギリス新人作家の手になるのだから驚きだ。似た例としては、日本人警部を主人公にしたJ・メルヴィルのシリーズ物が訳出されているが、最近はますますこの手の風俗ミステリーが増えている。まあ一応の水準作で読んでも損はしないが。

邦題 『合衆国を売った男』
原作者 デッド・オールビュリー
原題 The Twentieth Day of January(1980)
訳者 峰岸久
出版社 東京創元社
出版年 1984/10/19
面白度 ★★★
主人公 イギリス秘密情報部の部員マッケイ。
事件 アメリカの憲法には、”1月20日”(原題)の正午から新大統領の任期が始まると規定されている。今回の大統領選ではパウエルが勝ち、あとは就任式を待つだけであった。だが、マッケイは、重大な事実に気づいた。パウエルの選挙参謀を務めた人間がかつて共産主義者であったからだ。すると大統領も怪しい。ひょっとするとソ連の陰謀ではないか?
背景 一種の大統領乗っ取り作戦。プロットは独創的で、語り口もそれなりに楽しめるが、奇抜な着想とリアリティに富んだ物語展開とには、水と油のような感想を持ってしまう。またソ連首脳陣があまりに単細胞すぎるのも(まあ、スパイ小説の約束事とはいえ)、いただけない。

邦題 『沈黙の犬たち』
原作者 ジョン・ガードナー
原題 The Quiet Dogs(1982)
訳者 後藤安彦
出版社 東京創元社
出版年 1984/6/1
面白度 ★★★
主人公 英国海外情報局員ハービー・クルーガー。三部作のシリーズ・キャラクター。前作ではかろうじて宿敵ヤコプから逃れたが、いまでは日陰者同然の日々を送っている。
事件 クルーガーに重要な仕事が与えられた。KGB最高幹部の一人に英国側の諜報員がいるのだが、それがばれそうになり、その男を英国に連れ戻すという仕事だった。ただしクルーガーは国外に出ることは禁止されていたので、大学生を即席の諜報員に仕立てるが……。
背景 三部作の完結編。宿敵ヤコプと最後の戦いをする。プロットは単純で、英ソのスパイ組織が丁々発止の騙し合いをするという二転三転する面白さはないものの、語り口が巧みなので、サスペンスは最後まで落ちない。クルーガーに乾杯!

邦題 『スピアフィッシュの機密』
原作者 ブライアン・キャスリン
原題 Spearfish(1983)
訳者 田中昌太郎
出版社 早川書房
出版年 1984/10/30
面白度  
主人公 

事件 


背景 



邦題 『金融街にもぐら一匹』
原作者 マイケル・ギルバート
原題 The Final Throw(1982)
訳者 山田順子
出版社 文藝春秋
出版年 1984/6/25
面白度 ★★★
主人公 公認会計事務所の事務員デイヴィッド・モーガン。
事件 モーガンは素行不良でクビになった。そこで上司の世話で旅行会社の添乗員に就職したが、今度は麻薬の密輸に巻き込まれたのだ。危機一髪でなんとか逃げ出したものの、ついには浮浪者にまで落ちぶれてしまった。一方彼の恋人は秘書として着々と出世する。だが何故か、それらの状況を注意深く見つめている警視がいた。
背景 物語の本筋が見え出すまでが大変で、なんだかロンドンの霧の中にいるようなモヤモヤした心理状態となる。この前半部分を我慢して読書すれば、金融界の大物を狙う潜入捜査官の話になることがわかり、ラストは面白い。ちょっと構成の変わったミステリー。

邦題 『クイーンの定員T』
原作者 エラリー・クイーン+各務三郎編
原題 Queen's Quorum(1951)
訳者 小鷹信光他
出版社 光文社
出版年 1984/5/30
面白度 ★★★★
主人公 クイーンが選んだ里程標的な短編集から、さらに各務氏が面白い短編をピックアップした独自に編まれたアンソロジー。副題どおりの”傑作短編で読むミステリー史”といってよい。
事件 黎明期のヴォルテール「王妃の犬と国王の馬」から、第一期黄金時代のフリーマンの「モアブの暗号」までの19編(このうち英国人作家の作品は11本なので、本リストにいれた)。原本の定員順に並んでいる。
背景 クイーンの基礎研究の上に、各務氏の応用研究の花が咲いたという印象をもつ作品集。実際にクイーンの定員をすべて集めることは不可能に近いため、それを収集しているテキサス大学から、短編集の目次部分をコピーして、そこから手持ちの資料でまかなった苦心作。

邦題 『クイーンの定員U』
原作者 エラリー・クイーン+各務三郎編
原題 Queen's Quorum(1951)
訳者  
出版社 光文社
出版年 1984/6/30
面白度 ★★★★
主人公 Tの続編。17本が収録されている(うち英国人作家の手になるものは10本)。
事件 第二期黄金時代のチェスタートンの「折れた剣の看板」から、第一期近代のクリスティーの「チョコレートの箱」を経て、第二期近代のマハーグの「ブロードウェイ殺人事件」までを含む。第一期近代までは圧倒的に英国人作家の作品が多いが、第二期近代になると米国人作家の作品が多くなる。1930年代がその分かれ目となったのであろう。
背景 『クイーンの定員V』は米国人作家の作品の方が多いので(18本中11本)、本リストから外している。また後年光文社文庫に入ったときは3分冊から4分冊に変更になっているが、それらも本リストではカットしている。

邦題 『スナップ・ショット』
原作者 A・J・クィネル
原題 Snap Shot(1982)
訳者 大熊栄
出版社 新潮社
出版年 1984/6/25
面白度 ★★★
主人公 天才的な戦争写真家のデイブ・マンガー。
事件 1981年6月7日、イスラエルの空軍機はイラクの原子炉を爆撃し、作戦は成功した。しかしその陰では、マンガーの人知れぬ冒険があったのだ。彼は、一度はカメラを捨て負け犬になったにもかかわらず、祖国イスラエルと愛人のために戦うという話。
背景 著者の3作目の作品。クィネルには第1作『燃える男』のような冒険小説と、第2作『メッカを撃て』のようなスパイ小説があるが、本作はちょうどその2作を足して2で割ったような作品。そこそこ楽しめる作品に仕上がっていることは間違いないが、主人公マンガーが真面目すぎることと、スパイ陰謀小説としては謎が安っぽいのが、不満の残るところ。

邦題 『爆殺回路』
原作者 フランシス・クリフォード
原題 Drummer in the Dark(1976)
訳者 吉野美恵子
出版社 角川書店
出版年 1984/1/25
面白度 ★★
主人公 英国内務省の担当官ダンカン・ハワード。
事件 電波で起爆する特殊な装置を使った爆破事件が英国内で多発していた。<タッチ・ボタン>と名乗るテロ組織の仕業なのだ。ハワードは、この装置の製造先は東欧圏内と考えていたが、証拠の装置を持ち帰ることになった同僚が装置もろとも飛行中に爆破されてしまったのだ。復讐の鬼と化したハワードは、一枚の証拠写真から、ポーランドに飛ぶが……。
背景 クリフォードの遺作となった作品。筋は単純で、会話を多用してサスペンスを盛り上げるスタイルは、いかにもクリフォードらしい。読みやすいが、それでもユーモアの雰囲気はまったくないので一気に読もうとすると疲れる。真面目な作風なのはよくわかるが。

邦題 『サウザンプトンの殺人』
原作者 F・W・クロフツ
原題 Mystery of Southampton Water(1934)
訳者 大庭忠男
出版社 東京創元社
出版年 1984/12/21
面白度 ★★★
主人公 お馴染みのフレンチ警部。
事件 事件の発端は、サウサンプトン近郊のセメント会社に勤める研究者が、ライヴァル会社の新しい製造法の秘密を盗み出そうとしたことである。会社への侵入はうまくいったものの、誤って守衛を殺してしまったのだ。だがこの危機を、彼は自動車事故に装い、警察の目をごまかすことに成功した。ところがある日、ライヴァル会社の重役が乗り込んできて……。
背景 前半は倒叙形式で物語を進めながら、後半は自然とフーダニット形式に変化するプロットが巧妙である。ただし産業スパイという極めて現代的なテーマを取り上げているだけに、風俗的な面で古臭いミステリーという印象を拭いきれないのは残念だ。

邦題 『ワイアットの復讐』
原作者 デイヴィッド・ゲシン
原題 Wyatt(1983)
訳者 大庭忠男
出版社 早川書房
出版年 1984/5/31
面白度 ★★
主人公 世界的多国籍企業元社長のワイアット。要塞のような隠れ家を持ち、私設軍隊もいる。かつて諜報員であったこともあり、肉体も鍛えている。
事件 イギリス首相直属の秘密機関SSDの長官が、モスクワと内通している容疑で逮捕された。ワイアットは長官とは長年の親友であった。一方、ワイアットの邸内で、かつて彼の仕事を引き受けていた弁護士が彼の目の前で射殺された。この二つの事件に巻き込まれたワイアットは、復讐に立ち上がる。
背景 スパイ小説としては、陰謀が単純だし、スパイの人間的側面の描写も平凡で、あまり感心しない。しかし冒険小説的部分は、ラストの銃撃戦など、見るべきものがある。

邦題 『かくてアドニスは殺された』
原作者 サラ・コードウェル
原題 Thus Was Adonis Murdered(1981)
訳者 青木久恵
出版社 早川書房
出版年 1984/11/30
面白度 ★★★★
主人公 オックスフォード大学のテイマー教授。男性か女性かはわからない。
事件 法曹学院きってのあわて者弁護士ジュリアがたった一人でイタリア旅行へ出発した。テイマー教授は不安を感じていたが、やがてジュリアがツアー仲間をホテルで刺殺した容疑で留置されたということがテレックスで入った。なんとなく予想された不安が現実になったのだ。テイマー教授は、ジュリアからの手紙を元に真相を解明する。
背景 新人作家の作品。手紙だけで構成されるミステリーというのは、途中単調になりやすいが、この作品ではユーモアが生きているし、教授も途中からは外に飛び出したりと、構成に変化を持たせている。人によっては、スノッブが鼻につくかもしれない。

邦題 『赤の女』
原作者 ポーラ・ゴズリング
原題 The Woman in Red(1983)
訳者 秋津知子
出版社 早川書房
出版年 1984/1/15
面白度 ★★★
主人公 スペイン英国領事館員のチャールズ。中年の独身男性。
事件 物語は、チャールズが、知らないうちに贋作に絡む殺人事件に巻き込まれた若き未亡人を助けて活躍するというもの。前半はいささか退屈だが、中盤過ぎからはサスペンスが盛り上がる。特に夜の公園を二人が逃げまどうシーンは出色の出来映えだ。
背景 第一作『逃げるアヒル』がハードボイルド・タッチの文章で評判になったため、ゴズリングは男まさりの作家という印象が強いが、彼女の本当に書きたいのは男女の恋愛を織り込んだロマンチックなサスペンス小説にあるようだ。その意味では、むしろ女性らしい作家で、明らかにコリンズの古典『白衣の女』を意識したこの作品には、彼女の特徴がよく出ている。

邦題 『ジョン・コリア奇談集U』
原作者 ジョン・コリア
原題 ()
訳者 中西秀男
出版社 サンリオ
出版年 1984/11/30
面白度  
主人公 

事件 


背景 



邦題 『謀略山脈』
原作者 ジェフリイ・ジェンキンズ
原題 The Unripe Gold(1983)
訳者 工藤政司
出版社 早川書房
出版年 1984/11/30
面白度  
主人公 

事件 


背景 



邦題 『悪魔のウイルス』
原作者 スタンレイ・ジョンスン
原題 ()
訳者 竹村健一
出版社 実業之日本
出版年 1984/
面白度  
主人公 

事件 


背景 



邦題 『モスクワ・スパイ・ストーリー』
原作者 ジョン・シンプソン
原題 Moscow Requiem(1981)
訳者 広瀬順弘
出版社 読売新聞
出版年 1984/8/10
面白度 ★★
主人公 駐ソ英国大使館一等書記官のデービッド・ワーザム。主人公というよりは狂言役か。
事件 ソ連KGB議長がソ連の反体制秘密組織に暗殺された。最高幹部会議はこの事件を闇に祭ろうとしたが、ワーザムはこのニュースを彼のロシア人の愛人で、共産党員幹部の妻から聞き出し、西側に知らせたのだ。その結果、ワーザムは本国送還の憂き目にあってしまった。一方暗殺に使われた拳銃の出所を突きとめたGRU大佐は――。
背景 著者は現在BBCの政治部長。実際の仕事で得た情報を少し加工して作品に仕上げたようなもので、そのような内幕暴露が楽しめるか、そうでないかで評価が分かれる。小説としてはワーザムとその愛人の描写は平凡。山がないまま終盤まできてしまう小説だ。

邦題 『オペレーション10』
原作者 ハーディマン・スコット
原題 Operation 10(1982)
訳者 中上守
出版社 光文社
出版年 1984/12/20
面白度  
主人公 

事件 


背景 



邦題 『トゥインクル・トゥインクル・リトル・スパイ』
原作者 レン・デイトン
原題 Twinkle Twinkle Little Spy(1976)
訳者 後藤安彦
出版社 早川書房
出版年 1984/5/15
面白度  
主人公 

事件 


背景 



邦題 『ベルリン・ゲーム』
原作者 レン・デイトン
原題 Berlin Game(1983)
訳者 田中融二
出版社 光文社
出版年 1984/11/15
面白度  
主人公 

事件 


背景 



邦題 『あぶない暗号』
原作者 アンドリュー・テイラー
原題 Caroline Minuscule(1982)
訳者 山本やよい
出版社 早川書房
出版年 1984/3/15
面白度 ★★★
主人公 怠け者の青年ウィリアム・ドゥーガル。
事件 ドゥーガルはアルバイト的な仕事に従事していたものの、叔母の遺産がころがり込んでくると、さっさと仕事をやめ、女性と同棲しながら、大学院で中世写本の勉強を始めた。ところが指導教官の絞殺死体を見つけたことから、この殺人事件と宝探しに巻きこまれていく。
背景 『ゼンダ城の虜』のルドルフがよい例だが、これまでのイギリス冒険小説の主人公は怠け者が多かった。したがって古典的な冒険小説かと思って読むと、暗号の解明にしても、主人公の行動にしても、どうもスッキリしない部分があって違和感を持つ。かつての大英帝国の没落とともに、怠け者の倫理も変わってしまったのだろうか。

邦題 『ピカデリーの殺人』
原作者 アントニー・バークリー
原題 The Piccadilly Murder(1930)
訳者 真野明裕
出版社 東京創元社
出版年 1984/6/8
面白度 ★★★
主人公 アンブローズ・チタウッィク。犯罪学が道楽の小柄な中年男。
事件 ホテルのラウンジにいたチタウッィクは、男の手が連れの老嬢のカップの上で不自然な動きをしていることに気づいた。しばらく席を離れて戻ってみると、老嬢は青酸カリで毒殺されていたのだ。単純な犯罪と思われたが、チタウィックは容疑者の妻から真犯人探しを頼まれた。
背景 鬼才バークリーの久しぶりの翻訳。最初はいたって単純であったものが、しだいに混み入ってくる展開で、適当なユーモアが生きている。犯人は意外性十分だが、動機にはやはり無理があるようだ。古いといえば古いが、それでも十分楽しめる。この種のパズラーももっと訳されてしかるべきであろう。

邦題 『警察官に聞け』
原作者 A・バークリー、J・ロード、H・シンプソン、G・ミッチェル、D・セイヤーズ、M・ケネディ
原題 Ask a Policeman(1933)
訳者 宇野利泰
出版社 早川書房
出版年 1984/11/30
面白度 ★★
主人公 英国探偵クラブが企画した二冊目のリレーミステリー。主人公は参加した作家たちが創造した名探偵たち。
事件 今回の作品の趣向は、J・ロードが提出した事件を、各作家がそれぞれの探偵を交換して(例えばバークリーは、セイヤーズの名探偵ウィムジー卿を借りて)、謎を解いていること。このため同じ事件を5人の探偵が別々に解決している。
背景 ちょうど星新一氏が「ノックの音が……」という同じ書き出しで、結末の異なる短編を書いているのと似ている。この競作スタイルというアイディアは確かに面白いものの、問題編が陳腐な設定なので、読者は作家ほどは楽しめないのではないか?

邦題 『不肖の息子』
原作者 ロバート・バーナード
原題 Unruly Son(1978)
訳者 青木久恵
出版社 早川書房
出版年 1984/2/15
面白度 ★★★
主人公 捜査を担当するのは主任警部メレディスだが、他の容疑者たちの方が印象に残る。
事件 ミステリーの流行作家で、大地主のオリヴァー卿には三人の跡継ぎがいた。飲んだくれの長男、身持ちの悪い長女、そしてポップ・グループに入っている次男。卿の莫大な財産を考えると、むげに反抗できない三人であったが、卿の誕生パーティーの席上、オリバー卿が殺されたのだ。
背景 遺産問題、容疑者一同が集まった場所での毒殺事件とくれば、クイーンやクリスティーが得意とする世界である。ところがこの古典的な舞台設定に対して、登場人物はいずれも個性的な現代人であり(逆に警部だけは没個性であり)、舞台と人間がうまく溶け合っていない。謎解きは悪くないだけに、この計算違いはいささか惜しまれる。

邦題 『三人の人質』
原作者 ジョン・バカン
原題 The Three Hostages(1924)
訳者 高橋千尋
出版社 東京創元社
出版年 1984/10/30
面白度 ★★★
主人公 退役軍人のリチャード・ハネー。
事件 ハネーのもとに人質救出の依頼がきた。誘拐された三人の人間を3ヶ月以内に取り戻してほしいというものだが、手掛かりは奇妙な6行詩のみ。ロンドンで調査を始めると、神秘的な力を持つ人物が操る謎の結社が浮かび上がってきた。
背景 バカンはやはり楽しい。訳者あとがきで、ヒッチコックがバカンを好きだといっている、ことを見つけて思わず喝采! この作品の映画化を希望していたそうで、その出来に納得。悪役の怪物ぶりがユニークで、後年の007シリーズの悪役を思い出す。『三十九階段』なみの分量になるよう、もう少し中盤を刈り込んでくれたら、退屈しないで一気に読めるのだが……。

邦題 『バハマ・クライシス』
原作者 デズモンド・バグリイ
原題 Bahama Crisis(1980)
訳者 井坂清
出版社 早川書房
出版年 1984/6/30
面白度 ★★★★
主人公 バハマ諸島でリゾートを経営する実業家マンガン。上流階級に属する白人。
事件 マンガンは愛する妻子を海で失った。初めは事故と思われたが、事件の様相がはっきりし、マンガンは容疑者を取り逃がしてしまった。一方バハマでは、伝染病の発生、空港施設の事故などが起き、観光客は大幅に落ち込み始め、バハマの経済は危機に瀕していた。マンガンは、その現実に必死に戦うが……。
背景 バハマの地理的な説明や経済的状況の説明が非常にうまい。主人公も、英国冒険小説にふさわしい精神力と腕力を持っている。何故アメリカ、イタリア人が病死するかという謎も面白く、最後まで一気読んでしまった。複雑なプロットを生かす技術はマクリーンより一段上か。

邦題 『テロリストに薔薇を』
原作者 ジャック・ヒギンズ
原題 Touch the Devil(1982)
訳者 菊池光
出版社 早川書房
出版年 1984/7/15
面白度 ★★★
主人公 マーティン・ブロスナン。IRA時代の警官射殺の罪で、フランスの絶海の孤島で終身刑に服している。名脇役としてIRAの伝説的闘士で、今はトリニティ大学準教授のリーアム・デヴリンが活躍する。
事件 デヴリンは、ある日国防情報本部から、強引な要求をつき付けられた。それは、ブロスナンを救出し以後は自由に生きることを保障するが、その代わりにKGB関連のテロリストを暗殺するよう、ブロスナンを説得することだった。問題は、殺す相手が、かつての二人の仲間であったのだ。
背景 ヒギンズ節が久しぶりに楽しめた。どちらかというと著者の感傷的な、浪花節的なタッチはあまり肌に合わないのだが、今回はそれがイヤミには感じられなかった。ただし、脱出がいたって簡単に成功してしまう点などはいさかかガッカリ。

邦題 『エグゾセを狙え』
原作者 ジャック・ヒギンズ
原題 Exocet(1983)
訳者 沢川進
出版社 早川書房
出版年 1984/8/31
面白度  
主人公 

事件 


背景 



邦題 『ヒトラー日記』
原作者 リチャード・ヒューゴー
原題 The Hitler Diaries(1982)
訳者 田中昌太郎
出版社 東京創元社
出版年 1984/8/31
面白度  
主人公 

事件 


背景 



邦題 『溺死人』
原作者 イーデン・フィルポッツ
原題 "Found Drowned"(1931)
訳者 橋本福夫
出版社 東京創元社
出版年 1984/2/25
面白度 ★★
主人公 今は隠退している老医師メレディス。本編の語り手である。
事件 物語の舞台はイギリス海峡に面したダレハムという避暑地。この町の海岸で一人の溺死体が見つかった。死後相当の月日がたっていて、検死審問は、あっさりと6週間前に行方不明になっていた旅芸人の死体と評決した。だがメレディスはその結論に疑問を抱き、警察署長の了解を得て、単独で捜査を始めたのだ。
背景 この老医師の捜査がのんびりしているうえに、彼と警察署長とが死刑論などについて長々と話し合う場面があるので(ただしその議論の内容は興味深いが)、盛り上がりを欠いた物語展開になっている。フィルポッツとしては謎解きより、自己の主張を読者に聞かせたかったのだろう。

邦題 『ハイディング・プレイス』
原作者 フレデリック・フォーサイス
原題 The Hiding Place(1984)
訳者 篠原慎・かわだやすし
出版社 フジテレビ出版
出版年 1984/4/12
面白度
主人公 首相の娘婿の山本警視。
事件 世界的科学者イルメンコはソ連からアメリカへの亡命を決行した。しかし燃料切れで北海道に不時着し、東京に移送された。その彼を狙ってKGBは刺客を送り込み、CIAはアメリカに連れ出そうとする。首相は山本警視にイルメンコの警護を命じた。山本は、米ソの連中には見つけにくい場所にイルメンコを隠すが……。
背景 英米では出版されなかったいわくつきの本。梗概のようなもので、小説とは言いにくい。フォーサイスの名前を借りて、別人が書いたのかと邪推したくなる。どこに隠したかがもっとも重要な謎となっているが、木は森に隠すのがいい、では外人は? というものでガッカリ。

邦題 『第4の核』
原作者 フレデリック・フォーサイス
原題 The Fouth Protocol(1984)
訳者 篠原慎
出版社 角川書店
出版年 1984/9/1
面白度 ★★★★
主人公 国際陰謀がメインの話だが、強いて挙げれば英国情報部MI5の課長ジョン・プレストン。その他、実在の人物キム・フィルビーも登場する。
事件 一言でいってしまえば、イギリスに革命を起こさせようとする話。近未来(1987年)を舞台にしている。イギリスの総選挙直前に超小型原爆を持ち込み、これを米軍基地で爆発させようとした。そうなれば反米親ソの労働党政権が樹立されるのは確実だからである。一方プレストンは、偶然の事故死事件から、原爆の起爆装置に使われる部品を発見したのだ。
背景 丹念に伏線を張っていて、謎解き小説的な面白さもある。いわば情報という新しい材料をブレンドした酒を、古い革袋に入れたようなもの。安心して楽しめる。

邦題 『ナポレオンの密書』
原作者 C・S・フォレスター
原題 Hornblower During the Crisis(1950)
訳者 高橋泰邦
出版社 光人社
出版年 1984/9/27
面白度
主人公 ホレイショー・ホーンブロワー。
事件 ホットスパー号の艦長を解任されたホーンブロワーは、別の船で帰国中、フランス艦と戦闘して勝つ。そしてそこでナポレオンの親書を発見したのだ。彼はこれを元に偽の密書をつくり、スペインに潜入しようとした。
背景 全体の1/3から半分で話が中断している。著者の絶筆となった作品で、本来は『砲艦ホットスパー』と『トルコ沖の砲煙』の間に位置すべきものであった。いかんせん前半部のみだから、評価は厳しくなってしまうのは当然か。ホーンブロワー・ファンのための本であろう。なお本作のほかに訳者の長いあとがきと用語解説が付いている。

邦題 『名門』
原作者 ディック・フランシス
原題 Banker(1982)
訳者 菊池光
出版社 早川書房
出版年 1984/1/31
面白度 ★★★★
主人公 青年銀行家のティム・エカタリン。
事件 曽祖父が創立した銀行の取締役に抜擢された若いティムは、名馬サンドキャスルを種馬として購入したいという融資にゴー・サインを出した。ところがサンドキャスルの仔馬はいずれも奇形だったのだ! 行内の反対を押し切っての融資だったため、ティムは窮地に落ちいるが……。
背景 文字どおり”名門”男の話で、凡人読者(つまりは私ですね)にはいささかシャクにさわる場面がないこともない。また競馬シーンやアクション場面も、そう多くはない。とはいえ出来の悪い作品ではない。経済についての情報小説としても、医学ミステリーとしても面白かったからである。フランシスは老いていない。

邦題 『ディーケンの戦い』
原作者 ブライアン・フリーマントル
原題 Deaken's War(1982)
訳者 池央耿
出版社 新潮社
出版年 1984/4/25
面白度 ★★★★
主人公 ディーケン。初めは南アフリカの公民権運動を手掛ける有能な弁護士であったが、今では挫折して、負け犬的な人間になっている。
事件 ディーケンの妻が、ある日地下活動グループに誘拐された。ディーケンは妻を助けようと必死になるが、努力すればするほど泥沼にはまり込んでいった。
背景 著者の作品は、読後も後を引く重苦しいものが多い。本書は、他の作品に輪をかけた陰気な内容で、終盤に向かって読めば読むほど、読者の気分が落ち込んでいく。ところが、この悲劇の主人公にぐっと我慢して付き合っていくと、最後に意外な展開が待っている。著者のこの計算ずくのプロットには、思わずウマイ! と叫びたくなった。

邦題 『殺しの演出教えます』
原作者 サイモン・ブレッド
原題 An Amateur Corpse(1978)
訳者 飯島宏
出版社 角川書店
出版年 1984/1/10
面白度 ★★★★
主人公 売れない俳優のチャールズ・パリス。シリーズ物の第3作。
事件 アマチュア劇団内の殺人事件を扱っている。前2作とは異なり、チャールズは捜査を依頼されたわけではなく、殺された女性が彼の友人の妻で、その友人が殺人容疑で逮捕されたが故に、積極的に探偵役を引き受けたわけだった。犯人は劇団内の人間だと確信したが……。
背景 このシリーズの特徴は、いうまでもなくチャールズの人間的魅力とイギリス演劇界の内幕を知ることができる楽しさにあるが、今回は謎解き部分も悪くない。既存のトリックを巧みにアレンジしており、意外に新鮮な驚きを与えてくれる。拾い物の一冊。なおEQ誌1984年3月号の<EQの顔>では、髭もじゃながら、いかにも人好きのする顔立ちのブレッドに会える。

邦題 『死の激流』
原作者 アリステア・マクリーン
原題 River of Death(1981)
訳者 平井イサク
出版社 早川書房
出版年 1984/6/30
面白度 ★★
主人公 ハミルトン。謎のアマゾン探険家。
事件 第二次大戦末期、ナチ親衛隊はギリシャの僧院から大量の金貨を強奪したが、戦後その行方がわからなくなった。そして30年後、ハミルトンがそれらしきギリシャ金貨をアマゾンの奥地で見つけたという情報が、アメリカ最大の多国籍企業を操る男スミスの耳に入ったのだ。スミスらはハミルトンを莫大な金で雇い、その発見場所へと向かうが……。
背景 基本的には秘境冒険物だが、それにナチ物の味を加えた作品。秘境を舞台にした冒険小説としては、著者の初期作品のような迫力はないものの、まあそれなりに楽しめる。問題はナチ物を絡ませたプロットで、30年後のナチの残党にリアリティがないし、ラストの捻りも唐突だ。

邦題 『パルチザン』
原作者 アリステア・マクリーン
原題 Partisans(1982)
訳者 冬川亘
出版社 早川書房
出版年 1984/7/31
面白度 ★★
主人公 枢軸国側と思われる王党派支持者の一行。詳しく書くとネタバレになる。
事件 第二次世界大戦後半のユーゴスラヴィアが舞台。チトーの率いるパルチザンがナチスに対して戦っているだけではなく、ナチスに協力している王党派の地下組織も存在していた。物語は、そのようなユーゴへ、パルチザン攻撃の命令書を携えたユーゴ軍人の一行がローマを出発するところから始まる。ただし興味の中心が、敵中横断三百里的なアクションではなく、王党派支持を名乗っているものの、実は――という意外性にあるという物語。
背景 マクリーンとしては久々の戦争冒険物。冒険小説でこの種のプロットを成功させるにはかなりのテクニックが必要だが、今回は『ナバロンの要塞』のように成功しているとは言い難い。

邦題 『暑いクリスマス』
原作者 ジェイムズ・マクルーア
原題 The Gooseberry Fool(1974)
訳者 佐々田雅子
出版社 早川書房
出版年 1984/7/31
面白度 ★★
主人公 白人の警部補クレイマーとバンツー族の刑事ゾンディのコンビ。シリーズ物の4冊目。
事件 今回は、臨時の上司のいやがらせで、二人は別々の事件を担当させられてしまう。クレイマーは単純な交通事故、ゾンディは信心深い独身男の刺殺事件の捜査の一部を受け持たせられたのだ。クレイマーは大いに不満であり、密かに殺人事件の捜査にも手を出す、という設定で、二つの事件が結びつく終盤は意外性十分である。
背景 このシリーズは、人種隔離政策で世界各国の非難を浴びている南アフリカ共和国が舞台となっているだけに、ともすれば人種問題を告発したミステリーという点が強調されがちだが、そのことを抜きにしても、優れた作品が多い。ただし本作は中盤の展開がもたついていて、残念。

邦題 『小さな警官』
原作者 ジェイムズ・マクルーア
原題 The Caterpillar Cop(1972)
訳者 宮脇孝雄
出版社 早川書房
出版年 1984/12/31
面白度 ★★★★
主人公 白人の警部補クレイマーとバンツー族の刑事ゾンディのコンビ。邦訳は遅れたが、シリーズ2冊目の作品である。
事件 性器を切り落とされた少年の殺人事件を扱っている。当初は性格異常者による猟奇殺人かと思われたが、実は計画的殺人だったというわけで、謎解き小説の面白さも十分に十分に取り入れた、質の高い警察小説になっている。ブラック・ユーモア風味が舌に合わない人もいようが。
背景 昨年(1983年)の12月、外務省などの説得をふりきって南アフリカ共和国でのゴルフ試合に出場した青木選手は「サンシティを見るかぎり、黒人も白人も一緒にゴルフを楽しんでおり、差別はいっさい感じられなかった」と述べていた。”百見は一読にしかず”といえようか。

邦題 『英人教師殺人事件』
原作者 ジェイムズ・メルヴィル
原題 The Chrysanthemum Chain(1980)
訳者 田中昌太郎
出版社 中央公論社
出版年 1984/2/25
面白度 ★★★
主人公 兵庫県警の大谷本部長。シリーズ物の第ニ弾。
事件 日本の私立大学で英語を教えている英人講師の刺殺事件を扱っている。第一作もそうだが、著者の狙いは、警察小説というスタイルを通して、60年代後半の関西の風俗、社会を描くことにあったのだろう(ちょうどヴァールー=シューヴァル夫妻が、マルティン・ベック・シリーズで70年代のスウェーデンの社会を活写しているように)。つまり徹底した風俗ミステリーといってよく、イギリス人読者には、大谷夫妻の私生活や日本の政治家、暴力団の生態が物珍しく、日本人読者には滞日外人の行動が興味深く感じられるに違いない。
背景 訳題はいただけない。著者自らつけた日本題『菊の花輪』の方がふさわしい。

邦題 『神戸港殺人事件』
原作者 ジェイムズ・メルヴィル
原題 A Sort of Samurai(1981)
訳者 田中昌太郎
出版社 中央公論社
出版年 1984/5/25
面白度 ★★★
主人公 兵庫県警の大谷本部長。『英人教師殺人事件』に続くシリーズ物の3作目。
事件 従来の二作品と大きく異なる点は、時代を60年代中ごろから、80年代の初頭に変えていること(作中に年月は記されていないが、インヴェーダー・ゲームが流行しているなどと書かれているから)。ところが大谷本部長夫妻を筆頭に、お馴染みの脇役陣もほとんど歳をとっていない。もう一点は、例によって滞日外人が殺されるものの(今回は外資系会社の社長であるドイツ人殺害事件)、多少は謎解き的興味が含まれていることだ。こちらは歓迎すべき相違点といえようか。
背景 メルヴィルは、このシリーズを映画化できるとしたら、大谷本部長は三船敏郎に演じてもらいたいそうだ。相変わらず、外人はミフネが好きだなあ。

邦題 『死は海風に乗って』
原作者 パトリシア・モイーズ
原題 Black Widower(1975)
訳者 山本俊子
出版社 早川書房
出版年 1984/4/15
面白度 ★★★
主人公 ロンドン警視庁のヘンリー・ティベット主任警視。
事件 物語の発端は、米国の首府ワシントンのタンピカ大使館内で起きた殺人事件であった。だが微妙な政治情勢の関係で宗主国イギリスに捜査の依頼があり、ティベットの出張となったのだ。事件は簡単に解決し、ティベット夫妻はカリブ海の小島に招待されたが……。
背景 モイーズ自身はクリスティーの後継者と呼ばれるのを好まないようだが、ゆったりした物語展開や読後のさわやかさ、適度なユーモアなどはクリスティーの資産を受け継いでいるといってよいだろう。翻訳の関係で、カリブ海の小島が舞台の作品は『死の天使』が最初に紹介されたが、本書は、ティベットが初めてカリブ海地区に足を踏み入れた作品である。

邦題 『死のクロスワード』
原作者 パトリシア・モイーズ
原題 A Six-letter Word for Death(1983)
訳者 嵯峨静江
出版社 早川書房
出版年 1984/12/15
面白度 ★★★★
主人公 ロンドン警視庁のヘンリー・ティベット主任警視。
事件 クロスワード・パズルとその鍵が書かれた手紙がティベットに送られたきた。署名は”正義を愛する者”とある。単なるいたずらかと思ったが、『殺人ファンタスティック』でおなじみのマンシプル元主教の助けを借りてパズルを解くと、匿名推理作家の集り<ゲス・フー>クラブの会員が関係していると見当をつけたのだ。そして招待されているクラブのパーティに参加してみると、単なる遊びではなく、実際に殺人事件が発生したのだ。
背景 久しぶりの本格物。それも本格物らしい本格物だから驚きだ。クロスワード・パズルを小道具として利用している導入部が特にいい。トリックはいささか疑問を持つものもあるが。

邦題 『シャトル亡命軌道』
原作者 デレク・ランバート
原題 The Red Dove(1982)
訳者 田村義進
出版社 早川書房
出版年 1984/5/31
面白度  
主人公 

事件 


背景 



邦題 『夜勤刑事』
原作者 マイクル・Z・リューイン
原題 Night Cover(1976)
訳者 浜野サトル
出版社 早川書房
出版年 1984/1/31
面白度 ★★★
主人公 インディアナポリス警察のリーロイ・パウダー警部補。19年も警部補を勤めている。警官の仕事を天職とみなす、少し時代遅れの人間。
事件 いつものようにパウダーは夜勤部屋に入った。注目すべき事件は、顔と指をレンガで叩き潰された女性の殺人事件であった。これが二件めであった。翌日には毛沢東語録を信奉している学生がパウダーのところにきた。学校の不正についての相談だった。そして行方不明の少女探しに、私立探偵アルバート・サムスンを紹介してやることになった。
背景 パウダー初登場の警察小説だが、プロットはモジュラー型といってよく、さまざまな事件がほぼ併行して語られるというもの。パウダーの個性はそれほど生きてはいない。水準作。

邦題 『ロウフィールド館の惨劇』
原作者 ルース・レンデル
原題 A Judgement in Stone(1977)
訳者 小尾芙佐
出版社 角川書店
出版年 1984/6/25
面白度 ★★★★
主人公 田舎屋敷に雇われている中年女性ユーニス・パーチマン。今では珍しい文盲である。
事件 著者はウェクスフォード物と異常心理物を書き分けているが、本書は『わが目の悪魔』に続く後者のジャンルに属する作品。しかしレンデルの場合はグロテスクな怖さを前面に出すというものではない。この作品は、ユーニスが文盲であるが故に、物のはずみで屋敷の住人を殺してしまう話。一種の倒叙ミステリーといってよく、何故彼女が殺人者になったのか、どうして逮捕されるにいたったのかが、巧みな伏線と小道具扱いのうまさで、十分納得がいくように描かれている。
背景 つまり緑豊かな田舎で善良な人々が惨殺される恐ろしい物語でありながら、あくまで読者の理性に訴える仕組みになっており、上質なミステリーを楽しんだ満足感が得られよう。

邦題 『沼地の蘭』
原作者 ヒラリイ・ワトスン編
原題 Winter's Crimes 14(1982)
訳者 中村保男
出版社 早川書房
出版年 1984/6/30
面白度 ★★★
主人公 英国ミステリー作家の書下ろしばかりを集めた年刊アンソロジーの1982年版(邦訳は9冊目)で、11本の短編が収録されている。いつも活躍が目覚しい女性作家は、今回は一人のみ。
事件 その紅一点パルマ・ハーコートの「教師のつとめ」は、本書の先陣をつとめる佳作。中近東から帰国して体育の教師になった男が、溺れたアラブ人留学生を必死に救助するが……という展開で、結末の渋いユーモアが生きている。ロジャー・ロングリッグの表題作は、”夫と妻に捧げる犯罪”の物語。またデビッド・フレッチャーの「エルダー・マザー」も、夫が妻を殺してしまう話だが、怪奇小説仕立てになっており、もっとも印象に残る短編である。
背景 この他にも水準以上の作品が多く、女尊男卑(?)の先入観は大きな誤りだった。

邦題 『若者は恐れずに歌った下 マーカム家の海の物語2』
原作者 ジョン・ウィリアムズ
原題 The Privateer(1981)
訳者 田中清太郎
出版社 至誠堂
出版年 1984/3/25
面白度  
主人公 

事件 


背景 



邦題 『ジョニーよ帆をあげ舵につけ マーカム家の海の物語3』
原作者 ジョン・ウィリアムズ
原題 The Yankee(1981)
訳者 小牧大介
出版社 至誠堂
出版年 1984/6/15
面白度  
主人公 

事件 


背景 



邦題 『サムは軍艦に乗って行ってしまった上 マーカム家の海の物語4』
原作者 ジョン・ウィリアムズ
原題 The Raider(1981)
訳者 田中航
出版社 至誠堂
出版年 1984/8/5
面白度  
主人公 

事件 


背景 



邦題 『サムは軍艦に乗って行ってしまった下 マーカム家の海の物語5』
原作者 ジョン・ウィリアムズ
原題 The Raider(1981)
訳者 田中航
出版社 至誠堂
出版年 1984/9/7
面白度  
主人公 

事件 


背景 



邦題 『月下の海戦』
原作者 リチャード・ウッドマン
原題 An Eye of the Fleet(1974)
訳者 高永洋子
出版社 二見書房
出版年 1984/8/1
面白度  
主人公 

事件 


背景 



邦題 『ノアの叛乱』
原作者 リチャード・ウッドマン
原題 A Kings Cutter(1982)
訳者 高永洋子
出版社 二見書房
出版年 1984/11/15
面白度  
主人公 

事件 


背景 



邦題 『黒海の砲煙』
原作者 V・A・スチュアート
原題 The Valiant Sailors(1966)
訳者 海津正彦
出版社 光人社
出版年 1984/12/6
面白度  
主人公 

事件 


背景 



邦題 『西仏連合艦隊を迎撃せよ』
原作者 アダム・ハーディ
原題 Fox8:Battle Smoke(1974)
訳者 高津幸枝
出版社 三崎書房
出版年 1984/4/25
面白度  
主人公 

事件 


背景 



邦題 『リベンジ号最後の海戦』
原作者 アレグザンダー・フラートン
原題 The Thunder and the Flame(1964)
訳者 高沢次郎
出版社 三崎書房
出版年 1984/2/20
面白度  
主人公 

事件 


背景 



邦題 『狙われた秘密輸送船団』
原作者 W・ハワード・ベイカー
原題 Strike North(1965)
訳者 高永洋子
出版社 三崎書房
出版年 1984/8/25
面白度 ★★
主人公 英国海兵隊大尉のフィリップ・ブラックウッド。<ボライソー・シリーズ>を書いているA・ケントがD・リーマン名義で発表した<栄光の海兵隊>という新シリーズの第一弾。
事件 <ボライソー・シリーズ>との比較でいえば、まず時代が違う。ボライソーより50年以上遅い1850年代の前半、すなわち軍艦は木造帆船から蒸気甲鉄艦に移行しつつある時期に設定されている。したがって主人公も蒸気フリゲート艦に乗り込み、アフリカにいる奴隷商人をこらしめ、クリミア戦争に参加して武勲をあげる、というのが今回のお話。
背景 時代はより現代に近づいているだけに、戦闘場面の描写は激しくかつ血なまぐさい。迫力は十分といったところだが、著者の愛国心は、いささか鼻についてきた。

邦題 『緋色の勇者』
原作者 ダグラス・リーマン
原題 Badge of Glory(1982)
訳者 島田三蔵
出版社 早川書房
出版年 1984/3/31
面白度  
主人公 

事件 


背景 



邦題 『大西洋、謎の艦影』
原作者 ダクラス・リーマン
原題 Rendezvous-South Atlantic(1972)
訳者 高永洋子
出版社 早川書房
出版年 1984/7/31
面白度  
主人公 

事件 


背景 



邦題 『黒海奇襲作戦』
原作者 ダグラス・リーマン
原題 Torpedo Run(1981)
訳者 池央耿
出版社 早川書房
出版年 1984/12/31
面白度  
主人公 

事件 


背景 


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