実践報告:学習者の自立を目指す読書指導 - learner awareness through journal keeping

安間一雄 (玉川大学文学部外国語学科) amma@lit.tamagawa.ac.jp
大学英語教育学会第37回全国大会 (1998.9.11-13. 就実女子大学)


1.  授業の概要

学校名:玉川大学文学部外国語学科英語専攻

学年:1年生

学生数:27名(女23名,男4名)

授業名:「英語IIE」(講読)

授業時間:週1回100分 のうち後半半分

授業期間:1997年9月〜1998年1月

2.  授業の目的

エッセイ・小説・論説文などの prose の講読を通して全般的な英文解釈力の向上を図るというのが当該授業の 学年共通理解(1学年6クラス)である.本授業ではこれに加えて

  1. 継続的な読書習慣を獲得する
  2. 授業時間外での実質的学習量を増やす
  3. 学習意識 (learner awareness) を高め,学習を自己管理し教師/授業から自立できるようにする

ことを目標にして独自のカリキュラムを設定した.本報告では特に 3. の観点から, 行った授業の有効性を考察する.

3. 授業の手順

3.1  教材

学生には授業期間開始時に,自分の能力と興味に合った10週間程度で読める本 (ペーパーバックなど)を選ぶように指示した.選書時には Rubin & Thompson (1982) や Krashen (1985) の提言を参考にさせた.授業担当者は学生と面接を行い,選んだ本(以下「課外読書教材」と呼ぶ)が 適切かどうかの助言を与えた.

3.2  課題

3.2.1  目標設定  学生は課外読書教材を選書する際,自分が何を学習するつもりであるかという目標を設定した. 例えば早く読めるようにする,語彙を増やす,文法力を伸ばすなど.具体的な実践方法を計画することも求められた. また,学生は合わせて無理なく読了できるペースを設定した.いずれも書面で提出させ,授業担当者が面接をして 指導助言を行った.

3.2.2  学習記録 (journal)  学生は課外読書教材に取り組む度に学習記録を取ることが求められた.内容は,上記目標設定に 従って学習した事項につき,理解・思考のプロセスを逐一記録するのである.「理解・思考のプロセス」とは, 教材学習時に新たに理解したこと,気づいたこと,考えたことなどの学習量の変化を意識することである. 例を下に挙げる.

目標

活動

記録

速読

内容の区切り毎に要約を作る

いちど速読して要約を書き,次に精読して理解を補う確認し再び要約を書く; なぜ理解できなかったかの原因の考察

語彙

文脈から意味を推測する

はじめに文脈から推測した意味を書き,次に辞書で調べて確認した意味を書く; 推測が合っていたかどうか,どのように推測すればよいと分かったかを記録する

全般

あらすじを明確に把握する

感想を書く;登場人物の関連を図式化する;視点を変えて内容を書き直すなど

3.3 指導手順

3.3.1  面接と報告書  毎授業時間に面接をして学生の学習進度状況のチェックを行った.ただし時間が50分に限られて いたので,半数の学生に面接をし他の半数には "weekly progress report" を書いて提出させた. 翌週はその逆を行った.つまり学生にとっては隔週で面接とレポートの機会が与えられたことになる. 1人当たりの面接時間は3〜5分.面接時には学習記録の提示を求め,期待される記録が取られるように助言した.

3.3.2  レポート  学期末に学習内容の自己評価をレポートとして提出させた. 内容は,「目標は何であったか?またどの程度達成されたか?」「自分の学習過程の分析」 「自分の学習姿勢/ストラテジーにどのような変化があったか?」「自分の強い点・弱い点,これからの課題」 を含むものとした.議論を立証するために学習記録のコピーを引用することが求められた.

4. 結果と考察

学習記録をつけることで学習姿勢に改善が見られた.自己評価のレポートでは主として 次の点における肯定的評価が観察された.

  1. 本を1冊読み通す自信がついた.
  2. 早く読めるようになった.
  3. どのように読んだらよいか考えるようになった.
  4. 学んだことが他の授業で役に立った.

i. は英語の本を読むことが苦痛でなくなったという感想と平行している.本授業のほとんどの学生にとって 英語の本を読むことは初めての経験であったのでよい刷り込みを与えることができたのではないだろうか. 授業時における面接によるサポートと学習記録をつけるという課題が継続的読書の牽引になったものと思われる. また,自分で選んだ本を読ませ,自分で設定した目標に従って学習させることで,学習者の肯定的プライドを 利用したとも言える.

ii. は経験を積めば当然のことであるが,重要なのは学生自身が些末な点に拘泥しないで,情報を取捨選択して 読めるようになったと内省できた点である.

iii. は読むためのストラテジーを自分で工夫できるようになったということである.また,自分の学習状況が 客観的に位置づけられることでもある.

iv. 本授業で行った学習記録をつけるという作業はリーディングのためのみではなく他の語学あるいは語学以外の 学習にも適用できる.学習プロセスを意識することで自律的学習管理を行うというのは普遍的な作業であるので, 他の授業に効果が転移すればより一般性が高まったことになる.

学生の具体的な評価の例は次ページ参照.

5.  結論

Journal writing は教師が自分の教育方法を内省する手がかりとして言及されるが (Brown, 1994: 328-329; Richards, 1994: 7-8),学習者の学習管理を助ける手段としても利用できる (Ellis &Sinclair, 1989: 23-24).学習記録をつけることにより,学生は単に学習内容を後日の再学習のために残しておけるのみならず, 何を学んだかを意識することで自分の学習ストラテジーの構築ができるようになる.これは学習者の自立への 第1歩である.さらに,授業に依存する体質を改め,課外に学習する量を実質的に増やすことにより,教員と経営者の 負担を軽くすることにも繋がる.本授業は課外読書教材を使うに当たっての「離陸時期」であったため定期的な 面接指導を行ったが,2年目からは学生の自立度に応じてその頻度を少なくすることも可能であろう.

参考文献


Brown, H. D., Teaching By Principles  (Prentice Hall Regents, 1994)
Ellis, G. & B. Sinclair, Learning to Learn English  (Cambridge University Press,1989)
Krashen, S., The Input Hypothesis  (Longman, 1985)
Rubin, J. & I. Thompson, How to Be a More Successful Language Learner (Heinle & Heinle, 1982 )