後利用は計画的に(仮)

「ピオニー、いい加減にしろっ!」
 仮にも皇帝を呼び捨てにし、苛立たしそうに机を叩いたのは、その皇帝瓜二つといっていいほど、同じ容姿をもった青年だった。ただし皇帝とは決定的に違う点があった。ピオニーを睨み付けている双眼は綺麗な琥珀色だった。だが、それ以外は、浅黒い肌も、少し幼さの残る顔立ちも、陽光のごとき金の髪も寸分も違わない。
 その彼が何を怒っているのかと言えば、彼の手の内にある玉璽に原因がある。
「いい加減に、私に仕事を押し付けるのはやめろっ!」
「なんだ、皇帝になりたかったんじゃないのか」
 揶揄するピオニーに彼は憮然とする。
「…………………答えをお前は知っているだろう」
「嫌ならやめればいいさ」
「それでは仕事が片付かないだろう」
「お前がやらない限りは、な」
「ピオニーっ!」
 再び響いた怒鳴り声に、ピオニーは仕方なさそうに、寝そべっていたソファーから立ち上がる。
「アンバー」
 彼の耳元で楽しそうに名を呼ぶと、名前の由来の瞳がピオニーを無言で責める。
「別にサボっていたわけじゃない。こっちを考えるのに忙しくってな」
 ひらひらと目の前に差し出された紙を思わず受け取ったアンバーは、一目見て呆れる。
「……恋文か。しかも、なんだこの品性の欠片もない文面は」
「だから俺が一生懸命考えてたんだろーが」
「考えるだけ無駄だな。そもそもお前の考え方自体が間違っている」
「そーかぁー、行き着くところなんて、結局それだろ」
「普通はもう少し婉曲な表現をするものだ」
「ならば、お前はどうやって書く?」
 諭されたはずのピオニーは面白そうにアンバーに書面を焚きつける。結局のところ、これがピオニーの狙いだったとも気がつかず、そうだな、などと言いつつ文面に赤を入れていく。
 作業に没頭していたアンバーは、ジェイドが入室してきたことに気がつかなかった。
 難しそうな顔をしつつも、さらさらと書き上げると終了報告をする。
「出来たぞ」
 横にいたはずのピオニーにアンバーは渡したつもりだったが、そこにいたのは入室してきたジェイドだった。
「ジ、ジェイド」
 ジェイドの出現にアンバーの顔が固くなる。だが、ジェイドはここにきた目的を忘れずに問いかける。
「アンバー、陛下はどうしたんです?」
「えっ? さっきまでそこに……」
 見渡しても、部屋のどこにもピオニーはいなかった。
「……ピ、ピオニー……」
 アンバーが不安げに呼んだものの、求める応えは返らない。代わりに返ってきたのは、
「私に求婚、ですか?」
 思わぬ言葉に慌てて振り返れば、先ほどアンバーが渡した書面から視線を上げたジェイドと目が合う。
「あ………………」
 琥珀色の瞳が大きく見開かれる。
 思わぬ事態にアンバーは混乱する。苦手どころか怖いさえ思っている相手と二人っきりにされ、彼は必死に否定しようとするものの、すでに恐慌におちいっており言葉を紡ぐことすらままならない。
 全てをわかっていていながらも、ジェイドは嬉しそうに微笑み、求婚されたという演技を続けるという嫌がらせをする。
「幸せにしてくださいね」
「っ…………」
 笑顔の怖さにアンバーは震え上がり、出ない言葉の代わりに涙が滲み出す。
こうして、アンバーの中でジェイドへの苦手意識が確実に強まっていくのだった。



レプピオネタです。とりあえず、第一弾のみUP。他のは、大幅に修正いれないとあげられそうにないです。
タイトルは考えてすぐに出てこなかったので、もう超てきとーで。


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