レプリカジェイド


 「一つだけ質問に答えてやろう」

 それがジェイドに良くにていて、まったく非なる男が出した条件だった。
 聞きたいことは山ほどあった。
 だが、一つだけと限定すれば――ゆっくりとピオニーが口を開く。
「……ガイラルディアには何もしていないだろうな?」
「……ガイラルディア?」
「俺の部屋に入ってくる時にすれちがったはずだ。短い金の髪の青年だ」
「ああ、あの間抜けな男のことか」
「何もしていないだろうな?」
 再度、念を押すが、男は端麗な顔に面白げに笑みを浮かべただけだ。
「自分の心配より、人の心配か?」
「答えろ! 一つだけ教えるという約束だぞ」
「…………ちょっと眠ってもらったが何もしていない」
 ピオニーは思わず安堵の吐息をついた。
 この際、目の前の男の目的など、どうでもよい。どうせ自分には命を狙われる理由など有り余っており、いちいち気にしていたところできりがない。それよりも、
「あの男が生きてさえいればお前がジェイドに攫われたと証言してくれるからか」
「ジェイドのレプリカにだ」
 即座にピオニーが苛立たしそうに訂正する。
「そうか? あの男は気付いていない風だったぞ」
「……さっき、お前はガイラルディアを“眠ってもらった”といったな、気付かれていないのなら、なぜ眠らせた?」
 上目遣いで挑むような目付きで探りをいれるピオニーに満足げな笑みを口の端に乗せる。
「…………お前は馬鹿じゃないらしいな。気に入った」
「……それはどうも。ついでに宮殿に返してくれると嬉しいんだが……」
 赤い瞳が僅かに見張られ、同じく血のように赤い唇が歪む。
「………………本当にお前を気にいったよ。少しでも俺から情報を引き出そうと健気な努力だな。望み道理目的を教えてやろうか」
「……礼は何も出さないぞ」
「………………お前をいたぶることだ」
「趣味悪いな」
「いつまでその減らず口が持つか楽しみだな」

 目の前で青い小瓶が揺れた。
「この薬は摂取すると神経が過敏になる」
男はわざとピオニー見えるように目の前で、注射器で薬を吸い上げるとピオニーの腕へと突き刺した。ゆっくりと押し出せば目盛がみるみる減る。
「本当は経口薬なんだがな、お前は素直に呑んでくれそうにないし、それに――このほうが良く効く」
 ピオニーの耳元で囁くと、その耳を舐める。思わず全身に走った痺れに、体を強張らせる。
「どうした? まだ薬が効くには早いはずだが」
「気持ち悪さに嫌になっただけだ」
「…………この薬は本当は媚薬の一種なんだがな。実際は拷問に使われることのほうが多いようだな」
 薬の小瓶を床に叩きつけると砕け散った破片の中から一番大きなものを拾い上げる。鋭い切っ先をピオニーの頬へと突きつける。
「本来即効性ではないが、直接中に入れれば、回りも早いか?」
 朱線が一筋走る。
「っ……!」
 思わずあがりかけた悲鳴を噛殺す。
「つまらないだろ? 啼けよ」
「はっ……お前を楽しませるつもりはないんでな」
 あいかわらず、ピオニーは強気の態度をとっていたが、じんわりと体の奥から熱くなっていく感覚に震える。頬につけられた傷が徐々に痛み出す。その癖素手で触れられた肌が、熱を持ったまま火照る。
「んっ……見んなよ」
「するなと言われるとしたくなるだろう?」
 頤をつかまれ、強引に向き直される。
「どううした啼けよ」
 引き結んだ唇を割って、長い指が強引にねじ込まれる。舌を抑え付け、強引に口を開かされ仰のく。
 突如、左足に激痛が走った。先ほどの破片が足に突き立てられたのだ。
「ああっ!」
 あまりの痛みに意識が飛びそうになったが、再び走った痛みに強引に現実に引き戻された。鉄臭い血の匂いがする。
「…………甘いな」
 かすむ視界に指についた血を舐める男の顔が入る。楽しそうに唇を歪ませる姿は、嫌な予感を助長させる。
 



おもいっきり途中ですが、書きかったのは、ここと後はオリジナルジェイドとレプリカジェイドの 対応ですかねぇ……。
レプリカジェイドはいろいろとぐれてます。


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