君を想うがゆえに

戯れに欲しいものはあるかと問いかけたら、僅かに首を傾げヤツは答えた。
「……知識、ですかね」
 わずか九歳にしてフォミクリー技術を生み出した、まごうことなき天才は、優秀すぎるその頭脳にまだまだ詰め込み足りないらしい。
「んなもの、それ以上詰め込んで、どーすんだお前」
「どう、と言われましても、知りたいと思う欲求は人間ならではのものですよ」
 ヤツは少し困ったように苦笑する。
ずいぶんヤツも人間くさい表情をするようになったものだ。演技なのかそれとも素なのか計り知れずだが、少なくとも感情がわからないと、自分自身を音業かあるいはまったく別のもの――すくなくとも人間以外のもののように例えるヤツから、「人間ならでは」という言葉ができてきたことに少なからず驚く。
思わず、焼き菓子をほおばっていた手が止まる。
「何です? 聞いておいて」
 こちらはいつものごとく机に向かって執務中だ。
「……オレもお前のことを言えないなと思ってな」

 もっとコイツの意外な面を知りたいと思ったオレは、確かに人間で、そしてその証拠にこの情熱の欲求に抗えないだろう。



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なんか別ページにするのが申し訳ないほど短いです。。


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