穏やかな昼下がりに

 曲がり角で出会った相手は、探し人ではなかったが、懐刀と呼ばれる彼に近しい人だった。
「もしかして、カーティス大佐もですか?」
「も、ということは、フリングス少将、貴方もですか?」
 互いに主語を抜いた会話だったが、意味は通じているようで、思わず苦笑する。
「そちらから来たということは、ピオニー陛下は大佐の執務室にはいらっしゃらないのですね」
「今は中庭にいらっしゃるとのことです」
「中庭、ですか?」
 意外な答えに問いが弾む。ピオニーが中庭に赴くこと自体はめずらしくないが、その場合は、主に愛するブウサギの散歩に赴くことが多い。そのブウサギ達は先ほどピオニーの私室でくつろいでいたのをアスランは見てきたばかりだ。
 小首をかしげたアスランにジェイドが早々と答えを与える。
「新しい玩具と遊んでいらっしゃるようで」
「新しい玩具?」
「行けばわかりますよ」
 話しているうちに、後角一つ曲がれば中庭を見渡せる位置まで辿りついていた。通路の先には明るい日差しが差し込んでおり、話し声と剣戟の音が響く。
「なまったんじゃないのか?」
「それは私の台詞だ。力を過信しすぎて、鍛錬を怠ったろう?」
「一度勝ったぐらいで、ずいぶん強気な発言をするようになったじゃないか?」
「例え、一度だろうと勝ちは勝ちだ」
 明るい金の髪を風に散らした青年二人が剣を中庭で打ち合っていた。片方が二、三度打ち込むと、打ち込まれたほうが今度は反撃に出る。巧みに攻守を切り替える二人は同じような容姿で、どちらが優勢か見極めるのは混乱しかかったが、アスランも歴戦の勇士だ。すぐに勝敗の優劣を悟る。予想通り片方が止めとばかりに力をこめ、剣を跳ね上げ勝敗は決した。勝利を誇るように瞬いた瞳は深き蒼。悔しそうな感情を映す瞳は澄んだ琥珀。それが二人の唯一の相違点だった。
「お見事です、陛下」
 勝負がついたのを見計らってアスランは声をかけた。
「なんだ、アスラン、――ジェイドまで。お前たちも遊ぶか」
 ピオニーの言葉に一番先に反応した琥珀の瞳が嬉しそうに輝く。
「アスランっ!」
 上気した頬を緩ませ、中庭の入り口にいるアスランの元まで一気に走りよってくる。
「アスラン! ピオニーに勝ったぞ」
「それはおめでとうございます」
「約束、忘れていないだろうな」
「もちろんです。私のうちに泊まりに来たいでしたね」
「そうだ。それで夕食のデザートにクリームパフェ作ってくれるっていう約束だからな」
 “クリームパフェ”の単語にジェイドが唇の端に笑みを滲ませる。
「なんだ? ジェイド」
「駄々をこねる相手をどう説得しようかと思っただけです」
「作ればいいだけだろう?」
 ゆっくりと三人の元へと歩み寄ってきたピオニーが会話に割り込む。
「では、おねだりは私に勝ったらとしましょうか」
 ジェイドの手のひらから光が生まれ、槍を形作る。
「それなら、ついでに苺つきのが食べたい」
「勝ったら、ですよ」
 迎え撃つジェイドは余裕の笑みだったが。その傍でアスランは思わずため息をついてしまった。
この分では、次に自分が相手をしなくてはならなくなるかもしれないと。



レプピオ設定。。
実はただ単にアスランを書いてみたいと思ったというのだけが、本音だったりして……。


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