惚れた弱み

 グランコクマに移ってきてからオレの朝の日課は皇帝陛下の寵愛を受けるブウサギたちの散歩だ。その日もいつものように勝手に主の部屋へ入ると、ブウサギたちを集める。
「はいはい、少し待てって……ルーク、それは食べ物じゃないっ」
 ベッドの端の毛布をかじりはじめたルークを慌ててとめた時、わずかにずれた毛布の波間から金糸がのぞく。慌てて毛布を掻き分ければ、てっきりもう出ていったと思っていた主の姿。窓から差し込む光がまぶしいのか、長い睫毛が震える。金糸の隙間から蒼がぼんやりと見つめる。
「……ジェイド?」
 少しかすれた声で、よく知った人物の名を呼ぶ。そしてふわりとうれしそうに微笑む。その瞬間、あまりにも無防備なその笑顔に視線を奪われる。腕が伸ばされて頬に触れられ、ガイはようやく我に帰った。
「……陛下、寝ぼけていらっしゃいますね」
「……ん? ………………ガイラるデぃあ?」
 ようやく認識はしてくれたようだが、まだ舌足らずな呼び方は覚醒しきっていないようだ。
 ベッドの上に身をおこし、ぼんやりとしている。
「……ジェイドは?」
「はいはい」
 ブウサギのジェイドを皇帝陛下の膝元に抱え上げる。
「ん〜ジェイド」
 皇帝のブウサギ寵愛は変わらず、つまり今朝も変化はないということだ。手早くブウサギたちにリードをつけ、
「陛下、お休みのところお騒がせしてすいませんでした。オレ、ブウサギたちの散歩に行ってきますから、このままお休みください」
「……散歩か。ガイラルディア、待て俺も行く」
「陛下、公務は?」
「…………まだ朝だろ」
「もう昼です」
「………………ちょっとだけだ」
「だめです。オレが旦那に殺されます」
「……………………大丈夫だ」
「その根拠はどちらからきているんですか?」
「…………お前の主は誰だ」
「陛下です」
「なら………………」
「だめです」
 傷ついたその横顔に情にほだされる。
「……………………少しだけですよ」
 後で旦那から落とされる嫌味の数々を思えば、正直胃が痛むのだが、嬉しそうな皇帝陛下の笑顔を見ているとどうでもよくなってくるのが不思議だ。
 オレはこの皇帝陛下に甘い。
 自覚はしている。だが、どうしようもない。

 なぜなら……――最大の弱みを握られているのだから。



発掘したら出てきたガイピオ。途中なんですが、
もはや続きはかけません。
ちなみにジェピ前提ガイピオでした。
ガイに恋愛相談するピオニーだったのでした。


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