脱走阻止計画

 執務室への扉を開けるとそこにはブウサギがいた。瞬いて部屋を確認するが、やはり自分の部屋だ。
 断じてピオニーの私室ではない。綺麗に片付けられていたはずの部屋には、無残にも書類が散らばり、ブウサギの短い足に踏みつけられていた。
 この瞬間、ブウサギの処分がジェイドの中で決定された。本日の夕食にでもするべく、まるまると太った体を抱え上げ、厨房へと向かう。
 だが、野望は阻止された。
「お疲れ様です。カーティス大佐がサフィールを見つけてくださったのですね」
 さわやかな笑顔で話しかけてきたのは人間のアスランだった。見つかってしまった以上、こっそりと丸焼きにでもすることはできない。
 おまけにアスランの後ろから問題の主も姿を現した。
「お、さすが俺のジェイド。頼む前に見つけてくれたのか」
 いつもは端正なジェイドの顔が引きつる。
「陛下、サフィールが逃げ出していましたよ」
「お前のとこ行っていたのか、ホントそいつお前のことが好きだな」
「……気持ちの悪いことを言わなくでください」
「何だ、本当のことだろう?」
 まったく反省の気がないピオニーにジェイドも苛立ちを隠せない。
「陛下、ブウサギのせいで、書類、その他諸々、私の部屋がすごいことになっているのですが」
「片付ければいいだけだろう?」
「誰が、片付けると思っていらっしゃるんでしょうね?」
事も無げに答えられたが、そもそもピオニーは片づけが苦手だ。彼が片付けたのでは、整理しているのか、散らかしているのか判別がつかない。
「カーティス大佐、私も手伝いますよ」
「……いえ、フリングス少将の手を煩わせるほどではありませんよ」
「いいえ、二人でやれば早いですし、ついでにカーティス大佐の部屋にある、“あの穴”を塞いでしまいませんか?」
 アスランの提案をピオニーが慌てて阻止する。
「ちょっと待て、あの穴って“あの穴”か? だめに決まっているだろ」
「しかしどう考えてもあそこから、ブウサギたちが逃げ出していると思われますが」
「けどなぁ、アレないと不便なんだよ」
 渋るピオニーにアスランが笑顔で迫る。
「陛下。大切なブウサギたちに何かあってからでは遅いですよ」
「そーだけどな、逃げ出したら……お前たちがすぐに見つけてくれるだろ?」
「………………わかりました。それでしたら、現状のままにいたしますが、その代わり、今度逃げ出しているのを見つけましたら、鎖で繋ぎますからね」
「んなことしたら、あいつらが窮屈だろう」
「お嫌でしたら、二度と逃げ出さないでくださいね。では、失礼いたします」
 にっこりと笑いアスランが去っていく。残されたピオニーが恐る恐るジェイドに確認をする。
「なぁ……ジェイド、今のってブウサギのことだよな」
「……………………違うと思いますよ」
 あっさりと否定され、ピオニーが硬直する。
 逃げ出さなければ良いだけのことなのに、なぜ動揺するのだろう。
 それにしても、全く油断ならないものだ。ちょっと目を離すとすぐに誰かに狙われたりするのだから。とりあえず今夜は二度と脱走を企てないように、調教する必要があるようだ。



某様の黒アスランに惹かれて書いてみたものの思ったほど黒くならず。
やっぱりジェピになるのでした。


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