2月3日

 暦の上では春と言われようとも、まだまだ寒い季節が続いていることにはかわりはない。にもかかわらず、窓を開け放ち夜風に当たっていては思わず注意せざるを得ない。
「いい加減にしないと風邪を引きますよ」
「ああ、そうだな。だが、ずいぶんと寒くなくなった」
 ピオニーは外の空気に触れることが好きだ。このまま放っておけば、本当に風邪を引きかねないと、窓から引き剥がそうかと、近寄った瞬間、遠くからどこか懐かしい掛け声が聞こえてきた。

   鬼はーそとー

「……そういえば、今日は節分でしたね」
「豆まきですもするか?」
 振り向いた顔は、微かに苦笑を滲ませている。
 お互いに忙しさにかまけて行事ごとには疎くなっている。
「35個も豆を食べろと?」
「俺は36だな」
「豆よりもこっちのほうがいいですよ」
 左腕は窓を閉め、残る右腕で冷え切ったピオニーの体を引き寄せる。
「豆と比べられるとなんだか小さいと言われている様で、傷つくぞ」
「今更傷つくようなか弱い神経は持ち合わせていないでしょう?」
「…………お前さっきから俺に喧嘩を売っているのか?」
 ようやくピオニーが窓から視線を離し、ジェイドへと向き直る。
「さきほどからあなたが相手をしてくださらないので、寂しさに気を引こうとしているだけですよ」
 絶句したピオニーに口づける。だが、瞼を閉じずじっと凝視するピオニーに思わず身を離す。
「…………なんですか? そんな顔をされると傷つくじゃないですか?」
「お前がそんな殊勝なこと言うなんて、槍が降る!」
「……本当に……あなたという人は……おしおきしますよ?」
 言った時にはすでにピオニーを床に押し倒している。
「ジ、ジェイド」
 反射的に暴れようとする体を抱きすくめた。
「ずっと窓の外ばかりを見て何があるというのですか?」
「いや……春が来るなぁ……と」
「貴方の好きなお花見ができますよ」
 他愛のない会話をしているが、ジェイドの腕は着々とピオニーの服を剥いでいる。素肌さらされ思わず寒さに震える。
「寒い……」
「あなたがずっと窓を開けているからでしょう?」
「……そろそろ、締める……つもり、だったさ。お前は……すぐに盛って、始末に負えないな。 ……少しは四季を味わえ」
「生憎と私は冬が好きなので。このままがいいんですよ」
 滑らかな素肌に強く吸えば、そこだけほんのりと一足先に桜色に染まる。
「……ったく、お前の天邪鬼な性格は変わらないな。ジェイド、寒い。もっとこっち来い」
 口元に微笑を浮かべ、命令されるがまま重なり合う。
「だから冬が好きなんですよ」
 返事はなく、ただ広い背に腕がきつく回される。

 春は遠くて、近い。




2月3日開催、節分絵茶中に書いていたものに、ちょっと付け加えたもの。
時事ネタということもあって、ちょっとパラレルは入っています。


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