最近、妙に視線を感じるような気がする。 エドワードがそう思いはじめたのは、機械鎧の左足で大地を踏みしめるようになった頃だった。 気になる類のものではないけれど、見られているというのがわかるのだ。 本から視線を上げて振りかえれば、 「何、兄さん?」 鎧姿の弟がそこにいた。 「何でもない。――何か見つかったか?」 「ううん、ないみたい」 「…………そうか」 エドワードは、本を閉じると、元に戻……そうとして、手が届かなかった。 弟が兄の手から本を取り、書架へと戻す。 エドワードの頬がひきつるも、アルフォンスは気にせずだ。 年子の兄弟だから、昔は背の高さなんて変わらなかった――。 今二人は倍近くその差がある。 エドワードが身長を気にしていることを知っているからだろう、 いつも横にいたはずのアルフォンスはいつの間にかエドワードの視線外―― つまり後ろにいることが多くなった。 今までは目線が同じだったからその視線が気にならなかっただけなのだ。 エドワードが納得して、また新たな本の頁を開く。 ……しかし、すぐに頁をめくる手が止まる。 一度気にしてしまったためか、気になるのだ。 首の後ろのあたりに視線が集中しているような気がして…………。 剥き出しの首筋に手をやる。 「………………アル?」 「何、兄さん?」 それから何度か汽車に揺られた。 別の書庫にて、資料漁りをしていた時のこと。 やっぱり背後でアルフォンスが言った。 「兄さん、髪伸ばしはじめたんだね」 「…………まぁな」 《終》
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