「あんの、馬鹿!」 太陽へとまっすぐ飛ぶ一条の光。それをもう一筋の光線が追いかける。 ――――キラ。 心の中でつぶやいた名は、焦燥感を増す効果しかなく、前を行く機体との距離はちぢまらない。――いや、むしろ重力に引かれて差は開いていくようだ。 かつての愛機を思い起こさずにはいられない。 高速で宇宙(そら)を飛ぶ、真紅のMS――それはすでになく、現状でどうにかしなくってはならないのだ。 決断は一瞬。 旧式のMSのレーザーを四方に撃つ。前をゆく機体の推進機関を破壊するため、その軌道をそらすため、そして、爆風による反転をさせるため――。 撃墜一歩手前。荒っぽいことは十二分に承知だ。一直線に飛んでいく機体は狙いを定めやすいが成功率は決して高くない。それでも危険を冒したのは……「二人」とも助かるための方法がほかに思いつかなかったからだ。 爆風にあおられ太陽から遠ざかる機体を見つめ、安堵の吐息をつくものの、それはすぐに嘆息に変わった。 * * * プラントと地球連合との間に停戦協定が結ばれてから三ヶ月。 最高評議会議員の一員としてアスランは各地を飛び回っていた。 アスランが最高評議会の一角を担うことになったのは、パトリック・ザラ亡き後も残る過激派の後押しによるものだ。 アスラン自身は父の過ちを償うために、過ちを繰り返さないための力が欲しかったからでもあった。 あの戦争で知り合った志を同じくする者たちは、皆それぞれの勢力の代表としてなんらかの役職につき、忙しく各地を飛び回っていた。公式の場ではあるが、何度か顔をあわせる機会があった。 ただ一人アスランの幼い頃からの親友キラだけは、表舞台に出てこなかった。 カレッジの学生という、「一般人」に戻ったのだ。 三ヶ月――それは短いようで長い。 寝る暇すらほとんど取れない中、ようやく取れた時間にアスランがしたことは、キラに会いに行くことだった。 ――あいかわらず、忙しそうだね。 そういうキラの方が少し疲れているようで、思わず心配したのだが、 「大丈夫、アスランこそ体に気をつけて」 と返ってきたのだが、その「大丈夫」がこれかと思う。 見送るよと、キラもシャトルに乗り込んだ。太陽の近くなった時に、ふいにキラはアスランの側を離れていったのだ。――艦内にあった旧式のMSへと乗り込んで――。 * * * 眠る横顔は、よく見ればちょっとやつれたかもしれない。 一目会った時に気がつかなかった己を呪い、彼の絶望に気がつかなかったことを悔やむ。 「アスラン」 扉付近でカガリが声をかける。その横にはラクスの姿もある。 キラの事件を知り、それぞれの仕事を投げうち、皆がかけつけてきたのだ。 「お前も少しは寝ろよ」 「ああ、キラが目覚めたらな」 「キラの目が覚めたら、私達が起こしますわ」 「しかし……」 「今、あなたに必要なのは休息ですわ。ただでさえ、三ヶ月間ろくにお休みになっていらっしゃらないと聞きましたわ」 ラクスの言葉には有無を言わせない響きがある。 その横でカガリも睨んでいる。 「……わかった」 立ち向かうだけの気力も正直すでになかった。 |