朝も空けきらぬ闇の中、鎧に身を包み、剣を手に刻を待つ。 動くことを忘れた銀の彫像が立ち尽くす広場を霧だけが、緩慢に怠惰に流れ行く。 静寂の闇に染まらない熱き血肉を持つこの体の鼓動の音だけが聞こえる。一定のリズムを刻むその音は、命を賭けた戦いを前にして穏やかなのは、昨夜交わした杯の魔力のせいか。 お前は道化師のように陽気な笑顔で、怯みそうになる己を叱咤し、裏切りに憤り、自らを鼓舞すべく、薬入りと知らず杯を飲み干す。 俺はお前の覚悟を己の決意にすり替え、自らに誓いを立てて杯を飲み干した。 もう振り返ることはない、彼も――自分も。 誓いの杯がもたらした夢――彼と彼女と俺と――三人で海を見ていた夢に、宵闇の夢に未だまどろむ。 闇の中、一筋の光がきらめく。 口渇を覚え、手に汗を握る。 約束の時。 ずっと傍にいたのに、お前を止めることができなかった。 あの時、強引に殴り飛ばしてでも、お前を連れ戻すべきだったのだろう。 今、お前を失えば、俺は後悔することしかできない。 止められないと知った瞬間の決意を刃にこめる。 この命に賭けても、あの男からお前を連れ戻す! お前に贈られるべきものは、裏切りと憎悪の刃ではなく、祝福の言葉。 ――アルベール。 Happy Birthday 16歳おめでとう。 黒く塗りつぶされた過去を振り切れ――未来はお前のものなのだから。 《終》
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