ボクらには帰る場所がない。 各地を放浪するボクらは帰る家を持たない。ボクらが生まれ育った家は兄さんが国家資格とった時に燃やした。 家を持たないボクらは、帰る場所を持たない。 リゼンブール――ボクらの故郷。でも、そこで待つ人はいない。 父さんははるか昔に家をでてゆき、母さんはボクが4つの時になくなった。 住む場所じゃない、暖かな場所を僕らは失った。 無邪気に笑って過ごした日を失ったのは突然で、周りの景色が急に色褪せた。鮮やかだった毎日が色を失っていく。 「兄ちゃん、おなかすいた」 小さな拳をにぎりしめ、二人だけの家族で寄り添う。 ぬぐえない不安と恐怖。 ボクらは本当に子どもだったんだ。 だから当然のごとく庇護を求め、禁忌を――母さんを練成することを決めた。 けれど、戻らず。 ボクらは大きすぎる代償とともに、再び広すぎる世界に二人だけで放りだされた。 永遠に等しい彷徨。世界が白と黒の単色に変わっていく中、鮮やかな希望の光をともしたのはマスタング中佐だった。 ――僕らは今度こそ、夢をかなえなくってはならない。 僕らは子どもだ。無力な子どもだ。そしてそれを知っている子どもだ。 己の小ささを知っているから、大きなものを求めずにはいられない。――でもあの日々は戻らない。 わかった時に兄さんは覚悟を決めたのだと思う。ボクらは子どもだ。だから早く大人になると。庇護を必要としない大人に。 世界と対等にわたりあうために、国家錬金術師資格を取り、 ――子どもという存在から抜け出すために、子どもに還る場所を焼き払った。 求めて、足掻いて、闇に囚われないために――。 元に体にもどるという燦然と輝く夢。 つかみとるために、鋼の腕を伸ばし、自らの足で、夢を――切望をかなえるため、走り出した。 兄さんの背中は小さいけど、とっても頼りになるんだ。 何かに頼ることをやめたボクらは広すぎる世界に二人っきり。 一人じゃなくって二人――それがどれほど救われただろうか。 でも、時々思う。兄さんの背中は独りでは重すぎるものを背負っていると。 ボクは本当に子どもなんだ――。 「ねぇ、兄さん」 「ん?」 「次はどこにいくの?」 もうすっかり慣れた汽車の揺れを子守り歌代わりに、兄さんは夢の中へと落ちようしている。 「そうだなぁ……、大佐のところにでも戻ってみるか」 「大佐の……ところ?」 「そう、中央部の書庫なら大陸中の研究が集まっているしな」 「大佐は今イーストシティーだよ」 重そうな瞼が一瞬見開かれる。 「……イーストシティーの書庫だって、行ったことないだろう」 少しあわてて言い繕う様に、微笑を誘われる。 ちょっとだけ、寂しい思いを味わいつつ。それと同じだけ安堵する。 ボクらには帰る場所がない。 振り返っても過去の残骸が見えるばかり。 でも、僕らが夢を追い求めるかぎり、僕らの目の前には、歩み続ける背中が見える。 ボクらは二人っきりじゃない。 《終》
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