その男、天然にして策略家

校門を出ようとした時、声をかけられた。
「よっ、久しぶりだな、ツナ」
「ディーノさん!」
オレは久しぶりに会った憧れの兄弟子に近づいた。
あっ、一応言っておくけど憧れの人っていっても、あくまで『大人』の『格好良い』人という意味だから!
間違っても『年上のお姉さま』的な憧れじゃないからっ! 誤解しないでね!
…もし、そんな誤解が広まれば…想像するだけで恐ろしいっ!
「いつ日本に?」
「たった今だ。少しでも早く愛しい弟弟子に会いたくてな」
そう言ってニカって笑うけど、本当はヒバリさんに会いに来たついでに
オレに声を掛けたのは知っている。
ディーノさん、本当にヒバリさんの事、好きだよなー……オレには理解できないけど。
「ヒバリさんなら……」
「ああ、お前の後ろにいるな」
ひっ! 嘘っ!? 慌てて気配を探ってみる……
いる! 後ろにいる! しかも、すっごい睨んでるーーーーっ!
オレは慌ててディーノさんから距離を取った。
とばっちりはゴメンだし!
「何だよ、ツナ、つれねーな」
それに対してディーノさんは事もあろうに、オレの首に手を回して引き寄てきた。
ヒイィィィィィッッッッッッッ!
何か良く判らない怪光線がっ! 背中にっ! 背中に突き刺ささるんですけどおぉぉぉぉっ!
「アイツ……」
オレの恐怖体験をよそに、ディーノさんが嬉しそうに呟いた。
「後ろ見てみろよ、ツナ」
怖くて振り返れません!
だけど、振り返らないとディーノさんはこの手を離してくれないっ!
オレの超直感が告げてる!
骸と戦った時よりも、XANXASと戦った時よりも、更に勇気を振り絞って、そーっと後ろを振り返った。
ぎゃああああーーーーー!!!
怖いっ! 昔TVで見た貞子なんか目じゃないくらい怖いぃぃぃぃっ!
「ディーノさん!」
頼むから離して下さい! という懇願が喉元で止まった。
えっ、ちょっと!
何でこの人、顔面土着崩れみたいな顔で笑ってんの!?
例えて言うなら、猫好きの人が自分が大事にしている猫を見るみたいな感じで!?
「可っ愛いなー、恭弥の奴!」
「はっ?」
カワイイ? 苛歪畏威? えーっと、何だっけ、ソレ?
「やっぱ、あのヤキモチ妬いてますーっ!て顔、可愛くてたまんねーよな!」
……可愛いって言ったのかーーーーーっ!
大妖怪と恐怖の大王と魔王を掛け合わせた見たいなアレが!?
可愛い!?
ディーノさん、あんた、どんなフィルターかかってるんですか!
「協力ありがとうな、ツナ」
えっ? 協力?
あまりの衝撃に真っ白になった頭はディーノさんが何を言っているのか理解できない。
「やっぱり、ツナに抱きついた時が一番可愛い顔するんだよなー、アイツ」
うへへへーとだらしない笑い声が響く。
ま、まさか、この人……
「んじゃ、オレ、恭弥の所に行くから!」
そう言ってオレの横をすり抜け、軽やかな足取りで駆けていくディーノさん。
後ろで「うわっ」という声と一緒にトサっと衣擦れの音がした。
ディーノさんが躓いて、それをヒバリさんが受け止めたのは言うまでもなくて…
って、そんな事より!
えっ、じゃあ何!? 
オレ、今までディーノさんってスキンシップの激しい人だって思ってたけど!
実はヒバリさんがヤキモチ妬く顔が見たくてわざとオレに抱きついてたの!?
その証拠にディーノさんの嬉しそうな声が聞こえてくる。
「そんなに怒ってねーで、機嫌直せよ」
「誰のせいだと思ってるの?」
「んー、オレの所為だよな、ゴメンな」
「謝ってるようには聞こえないよ」
…同感です、ヒバリさん。
ああ…ヒバリさんがディーノさんにピンクのオーラ放ちながら、オレにどす黒いオーラ放ってる!
そんな器用な事、しないで下さい、ヒバリさん!
っていうか、オレ本当にディーノさんの事は何とも思ってないんで目の敵にしないで下さい…
これから学校でディーノさんに会ったら、何があってもダッシュで逃げようと心に誓った。




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