そろそろ日も沈み月が出始めた頃、ディーノはツナの家を訪ねた。
今日は中秋の名月だから、お月見をしないかと誘われたからだ。
玄関のチャイムを鳴らせば、満面の笑顔を浮かべてツナが出迎えた。
「今晩は、ディーノさん」
「ああ。今日は招待してくれてありがとうな」
「今日は、晴れて良かったですね」
縁側に案内されれば、まだ誰も来ていない。
「あれ、まだ皆来てねーのか?」
「ええ。今日はお月見泥棒があるから」
縁側に用意していた麦茶をコップに注ぎディーノに手渡しながら「でも、落ち着いたら顔を出すって言ってましたから」と言葉を続ける。
「お月見泥棒?」
「ここら辺の昔からの風習です。子供が月にお供えしたお菓子を貰って回るんですよ。チビ達3人も、張り切って出かけていきましたよ」
成程、どうりで今日はいつもより静かだと思った。見ればお月見団子の横にクッキーの入った小さな箱が積まれてる。
「へー、ハロウィンみたいなもんか?」
「似てますけど、ちょっと違います。イタズラはしないですし」
「じゃあ、何でお菓子が貰えるんだ?」
聞かれたツナは言葉に詰まった。
そう言えば、この日、何故お菓子を貰えるのか理由は知らなかった。
答えに詰まっていたツナの横から、奈々が言った。
「古くから子供達は月からの使者って言われているの。だから、こうして縁側にお供えものをして、持って行きやすいようにしてるのよ」
「へー、そうだったんだ」
「あら、ツッ君たら、理由も知らずにお菓子を貰ってたの?」
「流石、ダメツナだな」
「一々ツッコむなよ、リボーン!」
今日はやけに子供とすれ違うと思っていたけど、そういう事だったのか。
言われてみれば、皆、大きな青いビニール袋(指定ゴミ袋)を持っていた。
つくづく日本って国は変わってるなーと思いながら庭を眺めていたら、
数人の子供が柱の影からソワソワと覗き込んでいるのが目に入った。
「チャオ!」
にっこり笑って手を振ると「うわ、やっぱりガイジンだ!」とか「何で奈々オバちゃん家にガイジンがいるんだ?」とか「お前が行けよ!」とか「駄目だよ、エーゴなんてわかんねーもん」とか、そんな会話が耳に入る。
オレ、英語圏の人間じゃないんだけどなー、と内心苦笑をしながらも、怖がらせないように一際優しい笑みを浮かべて声をかける。
「遠慮してないで入れよ?」
ありとあらゆる裏社会の人間を惹き付ける魅惑の微笑みに子供達が叶う訳もなく、吸い寄せられるように中に入る。
「お月見泥棒の子達ね。ちゃんと用意してあるから。1こずつ持って行ってね?」
最後の子供がお菓子を受け取ると、一斉に「ありがとうございました!」と元気な挨拶をして駆けていく。まだまだ回らなくては行けない所がいっぱいあるのだ。
それから次々と子供達がやって来ては、お菓子を受け取っていく。
途中で奈々は片づけがあるからと、台所に戻っていったので、その相手をツナとディーノでした。
子供達は、近辺では滅多に見かけない金髪の青年に興味津々に眺めていく。
どうやら、子供達の間で「沢田家にガイジンがいる!」と口コミで広まり、その姿を一目見ようと集まって来てるらしい。その証拠に去り際に「すげえ!本当にガイジンだ!」と騒ぐ声が聞こえてくる。
「人気者ですね、ディーノさん」苦笑しながら言うツナに「全くだ」と同じく苦笑しながらディーノが返す。
一段落着いた頃には、月は随分と高いところまで浮かんでいた。
家の中から奈々の呼ぶ声が響く。
「オレ、ちょっと中を手伝ってくるんで、ここでゆっくりしてて下さいね」
「ああ」
縁側に一人取り残されたディーノは麦茶を飲みながら、夜の空を眺める。
頭上には淡い光を放つ月が優美に浮かんでいる。
こうしてゆっくりと夜空を見上げるのも随分と久しぶりだ。
夜は何時も、仕事に追われているか、泥の様に眠っているか、年下の恋人にベットに押し倒されているか、の三択しかなかった。
「恭弥、今頃如何してるかな?」
月は恭弥に似ている。
思わず視線が引き付けられる優美さも、会う度に意地悪だったり優しかったり、その姿を変えるところも、そして、胸の奥深くに眠る、狂気にも近い激しい思いを呼び起こすところも。
そんな事を思いながら、ぼうっとしていれば、再び玄関口に気配を感じる。
誰だろう?
子供達が来るには遅すぎる時間だし、何より気配は一つしかない。
刺客か?
いや、こんな月の明るい日にそれはないだろう。
だが、獄寺達にしては剣呑な気配だ。
身構えたディーノだったが、気配の正体に気づくと共に警戒を解いた。
「どうしたんだ、ツナん家に来るなんて珍しいじゃねーか?」
「あなたを盗みに来たんだよ」
「えっ?」
「今日は中秋の名月だからね」
「ばっ、お月見泥棒は子供が菓子を盗むもんだろ!?」
「だからだよ」
何時もあなた、僕の事を子供扱するでしょう?と悪戯っぽい目で見られれば、成程、コイツも確かに子供だと認めざるをえない。悪戯好きで我侭で凶悪な子供。
「それにクッキーよりも甘いものを盗んで何が悪いの?」
その舌でペロリと唇を舐められ、ニヤリ、と笑う。
そんな事をされてしまえば、もう盗まれる他に、なす術はなかった。

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マイナーな地方ネタの上、説明文を入れたら無駄に長くなってしまった…
この後、ディノさんは美味しく食べられる方向でお願いします。




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