細くしなやかな花が風に揺れている。
ああ、また嫌な季節が来た。
だいたい、暗殺部隊の本拠地に何でこんな群生があるんだ。
スクアーロはコスモスが嫌いだった。
見掛けは細くて貧相だし、ちょっと薙ぎ払っただけですぐに倒れる。
スクアーロは忌々しい気分のまま、チッと舌打した。

先程、XANXASを尋ねにディーノが来た。
あの二人が幼馴染だと今日初めて知ったし、あんな穏やかなXANXASも初めて見た。
普段、自分にはあんな顔しない癖に…
二人の間に入り込めない何か特別なものを感じる。
それを思うと、何故か胸がモヤモヤとする。

そもそもだ。ディーノは何でXANXASを尋ねに来た?
この、特殊暗殺部隊の本拠地に。
そんなの一つしかない。
マフィアのボスとなった今ですら、誰も傷つけたくないと甘っちょろい事をほざく癖に、自分の手を汚さなければ良いという事なのか?
その考えは何かを汚されたみたいで、スクアーロの機嫌は更に悪くなる。

そこまで考えて、漸く自分が何に腹を立てているのか気づいた。
何だかんだいいつつも、スクアーロはディーノの事を認めていた。
どんなに汚い現実を見せ付けられても、どんなに辛い現実に晒されても笑顔を失わぬその姿に、自分では持ち得ない別の強さを感じていたから。

―踏みつけられても、いつの間にか起き上がり同じ姿のまま咲き乱れるこのコスモスの様に―

ああ、そうか。だから自分はコスモスが嫌いだったのだ。
この花を見る度に、泣きそうな顔で「手当てをしろ」と己を心配するあの姿を思い出すから。
でもそれも無意味なものになった。その強さは、今日裏切られたのだから…

「何、辛気臭せー顔をしてやがる、カス」
不意に、後ろから声を掛けられた。気配は全くしなかったのに。
何時から後ろにいたんだ? 悪趣味な事しやがって…
「…跳ね馬はどうしたぁ?」
「…廊下でこけて気絶したから客間に寝かせてる」
「はあっ!? 何やってるんだぁ!」
「あの男らしい」
「…まあ、確かにな」
彼にしては柔らかく笑う姿に相槌を打ちながらも、スクアーロの心が何故かざわめく。
(くそっ、一体、何だっていうんだ!)
そもそも、それは暗殺を持ちかけに来た男に対してする顔なのか?
ああ、こんな事を一々気にするなんて、今日の自分はどこかおかしい。
「貴様、さっきから様子が変だぞ?」
XANXASに指摘されるくらいに。
早く、元の自分に戻らなければ。
その為にどうすればいい?
ああ、そうだ。

「で、誰を殺すんだ?」
そのターゲットと一緒に跳ね馬に対する陰鬱とした気分を切り捨ててしまえば良いのだ。
「はあっ? 何をほざいてやがる?」
「…何って、跳ね馬の依頼相手の事だろーがぁ?」
「…お前、アイツが依頼に来たと思ったのか?」
「…違うのかぁ?」
「んなもん、アイツがする訳ねーだろーが」
無意味な殺しは嫌いだと平然とほざく男だぞと言われ、胸のつかえが取れたようにスっとする。
「ぶはっ、何だその顔は?」
「煩せー」
XANXASが何を言いたいのか判る。自分は今、さぞかしほっとした顔をしてるんだろう。
甘ちゃんだ何だと言いながら、やはりディーノにはそうであって欲しいのだ。
だが、代わりに疑問が残る。

「じゃあ、何でアイツ、お前を訪ねにきたんだぁ?」
「ああ。誕生日プレゼントを持ってきただけだ」
「誕生日、って誰のだぁ?」
「オレのだ」
「そーか、お前の…っ、何だとぉ! オレ様は知らねーぞぉ、そんな事!」
「煩い」
ズガンッ!と派手な音と共にスクアーロが地面にめり込んだ。
だが、どんな衝撃も吹き飛ばす新事実を知ったスクアーロがこれ位でめげる訳もなく、ガバリッと跳ね起きて叫ぶ。
「オレ様にも祝わせろぉ!」
だが、再びドガンッ!という音と共に顔面を地面に埋められるスクアーロ。
「煩いと言っている」
だが、やっぱりスクアーロはめげない。大体、跳ね馬には祝わせる癖に、何で自分は祝ってはならないのだ。地面から顔を剥がし、XANXASにガンをつけながら言った。
「何があっても祝ってやるからなぁ! 覚悟しておけぇ!」
悲しい事に、この場にはツナがいない為「祝われるのに必要な覚悟って何だよ」と突っ込んでもらえない。
二人の間を風が凪ぐ。
やがてXANXASが諦めたように顔を逸らした。
「好きにしろ」
(よしっ、勝ったぜぇ!)
スクアーロは心の中でガッツポーズを取りながら起き上がる。
当然の事だがXANXASは手を貸さない。
(跳ね馬はちゃんと介抱してやるくせに…って何だ?)
ディーノの事は解決した筈なのに、胸のモヤモヤが取れない。
そう言えばXANXASにディーノが絡む度にモヤモヤしてる気がする。
新たな疑問に首を捻っているスクアーロの横でXANXASが呟いた。
「……コスモスか」
「ああ」
「ふん。てめぇに似合いの花だな」
「どういう意味だぁ?」
「細くて貧相な癖に、しぶといところがそっくりだ」
そう笑うXANXASの顔は、ディーノと話す時の姿に似ていた。

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Buon Compleanno! XANXAS様!
って、祝ってないよ! どっちかっていうと幸せなのはスクだよ!
えーっと、うちのディノさんとザンさんは幼馴染で、お互い初めて出来た年の近いマフィアの友達なので比較的仲良しという設定です。
なので、これの前に↓みたいな会話がありましたよ。


「XANXAS! 久しぶり! 誕生日おめでとう!」
バンっと派手な音と共にディーノが現れた。
つかつかとXANXASの傍に近づくと、おもむろに「これプレゼントな!」と月桂樹の冠を頭に乗せる。
「何の真似だ?」
「えー、だってお前の誕生花じゃん、それ! なーんて、実は昨日のボンゴレ式サッカー大会でMVP取って貰ったモンなんだけどな」
「…燃やすぞ?」
「ジョークだろ? ソレくらい付き合えよ。ったく、愛想ねーっつーか何つーか。まあ、いいや。メインはこっちな」
ドンっと机の上に赤いリボンのついたテキーラのビンが置かれる。
「手に入れるの、結構苦労したんだぜ?」
「ふん、悪くはねぇ」
「ちぇ、礼ぐれー素直に言えよなー…あ、コスモスの前にいるのスクアーロじゃん! そーいやお前、ちゃんとスクアーロに祝ってもらったのか?」
「はっ? 何でカス鮫が出てくるんだ?」
「何だよ、祝って貰ってねーのかよ! 駄目だろ! こういう時こそ、好きな相手に急接近するチャンスじゃねーか!」
「だから、何度も言ってるが、オレとカス鮫は…」
「隠すなよ、相変わらずシャイな奴め! よし、このオレが一肌脱いでやるぜ! 行くぞ、XANXAS!」
返事を聞く前にバタンと派手な音を立て外へと飛び出すディーノ。
「…行っちまいやがった…相変わらず人の話を聞かない奴め…」
遠くでビタンという音が響いてきた。おそらく派手に転んだんだろう。
ディーノは放っておくと何をしでかすか判らない男だ。
面倒臭いと思いつつ仕方なく追っかけるXANXASだった。

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って、やっぱり祝ってないし!(笑)
ザンとスクはお互い好きあってるけど、お互い自分の気持ちに気がついていません。
自分の事は鈍いけど、人の事には聡いディノさんは二人の気持ちに気づいてて、いらんお節介をしていますよって話です。




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