突然、雲雀の前に薔薇の花束が現れた。
「オレと出会ってくれたお前に、愛しさと感謝を込めて」
「ついに気でもふれたの?」
「お前、仮にも恋人に向かってそういう事言うなよ」
花束の持ち主、ディーノは脱力してその場に座り込んだ。

そうは言うけど、男にこんな大きな花束を贈る人間なんていないだろう、普通?
素直にそう言えば「今日は記念日だろ!」と言われた。
記念日? 何の? 
確かにディーノはイベントが大好きだった。
クリスマスだ、お正月だ、誕生日だと言っては雲雀の元を訪ねる。
忙しくて来日できなくても電話やメール、時にはプレゼントを贈ってきた。
だが、今日が何の日かと言われれば、全く判らず首をかしげる。
そんな雲雀に、ディーノは怒り出した。
「二人の記念日を覚えてないなんて、サイテーだ!」
「二人の記念日?」
雲雀の記憶では付き合いだしたのはもう少し後だった筈だ。
それ以外での記念日と言われてもピンと来ない。
「だから! 今日は二人が出会った記念日だろ!」
お前の事だから忘れてると思って複線はっといたのに!と目の前で騒ぐ姿を見ながら、そう言えば昨日赤ん坊がどうとか言っていたのを思い出す。
だが、あれはどう聞いてもリボーンへの感謝を語ってるだけにしか聞こえない。
確かにさり気無く雲雀への愛を語ってはいたが、だけど、あれで気づけと言われても無茶な話だ。

(さて、如何しようか…?)
机を挟んだ向かい側のソファに座るディーノは完全に拗ねきっている。
少々困りつつも、雲雀は疑問に思った事を口にする事にした。
「そもそも、何で出会った日なの?」
「何でって?」
会話をする気はあるらしい。
これならまだ付け入る隙はあると心の中でこっそりと安堵する。
「恋人なら付き合い始めた日の方がよっぽど記念日になると思うけど?」
「恋人って!」
「恋人同士でしょ、僕達?」
わざとゆっくりとした動作でディーノの隣に移動して、こめかみにキスをしながら「違った?」と殊更優しく聞けば「違わない」と嬉しそうに笑う。
普段そっけなく振舞っているので、偶にこうやって判り易い愛情を示すと物凄く効果がある。
その事をディーノも自覚しているので「オレって安いよなー」と心の中では思いつつ、「まっ、いっか。嬉しいモンは嬉しいんだし」と雲雀に擦り寄った。

暫くの間「ちゅっ」と音を立てながらキスをし合う。
ディーノが満足した頃合を見計らって、質問を再開させた。
「それで?」
「いや、だって、ほら……オレ達が付き合い始めた日って、あれだろ?」
「あれ?」
「その……お前に初めて……抱かれた日だから……」
「ああ……、あなたの処女喪失記念日」
「だから、そういう事を言うなって、いつもいつも言ってるだろ!」
「あなたこそ、いつまで照れてるの?」
付き合い始めてもう一年だ。
その間、何度も身体を重ね、その淫らな肢体を余すことなく目の前に晒しているのに。
「だから……初めてってのは特別なんだよ。判れよ……それ位……」
胸元のシャツをギュっと握りしめながら、恥ずかしそうに雲雀の肩に顔を埋める。
金糸が頬を擽り、吐息が首筋に掛かるのを感じながら、心の底から思う。
……どうしてくれよう、この生き物。
いや、駄目だ。ここで風紀を乱したら、折角良くなった機嫌がまた悪くなる。
本気で拗ねたディーノが意外に厄介な生き物なのだ。
「そんな事言われても、僕だってその日に初めてだったけど、別に恥ずかしいとは思わないからね。まあ、あなたの処女を貰ったのは確かだけど……」
「だから、しょっ、処女って言うな!」
「僕だって、あなたに童貞あげてるんだけど?」
「いや、確かにそうだけど……確かに余裕なかったお前は可愛かったけど……」

何か聞き捨てならない言葉を呟かれたが、まあいい。
これで納得はいった。
要するに、付き合い始めた当日を祝えないから、出会った日で代用しようという訳らしい。
なら、付き合ってあげてもいいだろう。
いつも「そっけない」とか「つれない」とか言われる雲雀だが、その実ディーノには甘い。
ただ雲雀の愛情表現は良く言えば奥ゆかしく、悪く言えば判りにくいから、よく言えばスキンシップ大好きな、悪く言えば自分の事には鈍感なディーノが気づかないってだけで。
「折角だから何処かにつれていってあげる」
「本当か!? じゃあ、海に行きたい! お前のバイクで!」
やっぱり恋人だったら外せねーだろ?とウインクをされて、何でこの人はこんなに可愛いんだろうねと苦笑する。
「じゃあ、行こうか?」
「ああ! っと、待てよ、その前に……」
机の上にある花束を手にして雲雀へと差し出す。
「折角持ってきたんだからさ、受け取ってくれよ」
オレの愛が詰まってんだぜ?と言われれば、雲雀に断る術はない。

「じゃあ、改めて……オレと出会ってくれたお前に愛しさと感謝を込めて」
そう言って、渡された花束よりもずっと可憐で美しい花をその顔に咲かせるから、ついに雲雀も白旗を揚げる。
それでも悔しさなどはちっともなくて、寧ろ嬉しいと思うのだから、自分も相当に終わってるなと自覚せざるを得ない雲雀だった。

--------------------------------------------------
二人が出会ったこの素晴らしい日に祝福を!
って事で、たまには甘いお話でもと思って書いたんですが…
砂糖を入れすぎた餡子みたいに、甘すぎて歯茎がガクガクいいますよ!
っていうか、このヒバリさんは絶対に偽者だと思います




SSとか TOP→