干しぶどうについて雑感
1968年から約9年間、私は干しぶどう(RAISIN)の輸入販売の仕事に携わってきました。日本では、干しぶどうは生産されていませんので、一般の消費者はその商品知識はないはずです。(輸入に携わった人や製パン業者、製菓業者にとっては当たり前の知識かも知れませんが)ここに、述べることは、普通の日本人には、初めて知ることが多いと思い、書き留めて置きます。只、百科事典等に書いてあることは、出来るだけ省きます。
(1)日本ではごく稀にぶどう生産者が干しぶどうを作ることは、ありますが商品としての干しぶどうは100%輸入ものと考えて差し支えないでしょう。しかもその90%は米国から残り10%の大半は豪州からです。その他若干量ですが、中国、南アフリカ、ギリシャ、トルコ等から輸入実績があります。
右の写真は、左から中国産グリーンレーズン、米国カルフォルニア産レーズン、南阿産レーズン、豪州産サルタナレーズン、トルコ産サルタナレーズン。
1960年から75年頃まで、米国産、豪州産の干しぶどう(以下レーズンと書き示します)は、生産者側からみて、恒常的に余剰農産物的存在であったと思います。そのため、生産国側は、補助金を使って余剰分を輸出していました。従って、買い方の我が国は、5%の関税を加算しても、生産国より安く購入出来たものと思います。豪州産レーズンは別名、サルタナレーズンとも呼ばれます。ぶどうの品種は米国産レーズンと全く同じです只、レーズンの色を見れば一目瞭然です。又、何れの干しぶどうもジベレリン(gibberellin)と云う一種のホルモン剤で種無しぶどうになるよう処理されております。
(2)輸入の大半を占める米国産レーズンと豪州産レーズンの違いについて
両国産ともぶどうの品種は、トンプソン種で同じものですが、商品として出来上がったものは、かなりの違いがあります。トンプソン種は生の状態では、マスカット色をしておりますが、干し方(レーズンの製法)の違いにより、色や糖分が異なってきます。米国産のレーズンの色は、濃い褐色、豪州産のレーズンは飴色の薄い褐色をしております。この差は何処から発生するかと云うとぶどうの干し方にあります。
米国産レーズンの産地はカルホルニア州のフレズノ市周辺、ロッキー山脈の西方緩やかな丘陵地帯(元は砂漠地帯であったが灌漑施設の整備により、ぶどうその他の多くの果物が生産されております)が主産地この地方の8月中旬から9月中旬は、ほとんど雨が降らないので、ぶどうの天日乾燥に適しています。
一ヶ月かけて天日乾燥しますが、2週間目頃に一度裏返しして、全体的に乾燥が行き届くようにします。
この一ヶ月間でぶどうは焙煎されたコーヒー色になります(タンニン化)、水分も14〜15%位になりこれを200ポンド入る木箱に詰めて保管されます。この段階では、ぶどう乾燥時に混入したぶどうのつたや柄なども混ざった状態で保管されます。これを商品として出荷するに当たり、パッカーといわれる商品製造業者が、水分調整、不純物の除去、金属片の除去、つぶの不揃いの調整、最後に消毒=ヒュウミゲイション(主として、水蒸気)を行います。消毒薬等は一切使われない天然の食物の一つです。これを29ポンド(13,2キロ)(米国は未だにメートル表示でないものが多い、ガソリンがガロンで3.8リッター等)のカートンにパックされて原材料用商品となりなす。
一方、豪州産レーズンの産地はオーストラリア、ニューサウスウエールス州とサウスオーストライア州に跨るマレー河流域地帯で、当地のぶどう収穫期は3月中旬から4月上旬です。この時期当該地方では、週1〜2回位の頻度で雨が降ります。従って、ぶどうの天日乾燥は短時間で行わねばなりません。そのための方法として、米国産とはかなり異なる乾燥が行われます。先ず、ぶどうの木に付いた状態で出来得る限り乾燥させる。次にぶどうの表面の白粉(油性の被膜ブルームbloom)をソーダで、除去して乾燥を速める処理を行います。そこで天日乾燥を行いますが、雨の予報が出れば直ちに、屋内乾燥に切り替えます。実際の乾燥日数は約1週間位です。
1ケ月かけて乾燥させる米国産レーズンとの違いがここにあり、このため、豪州産レーズンは、タンニン化の少ない薄い褐色のものになります。このレーズンの色ですが、豪州産レーズンの品質規格の重要な要素の一つになっています。色が生のマスカット色に限りなく近い飴色が5段階表示で、最上級は5クラウン最下級は1クラウンと表示されて区別されます。例外的に6クラウン級の特級品が出来る事もあります
生に近い色のレーズンが豪州産の場合、品質が良いことになっています。ただ、欠点もあります。短時間で乾燥させるため、レーズンの表面にしわが多く出来、そのしわの中に稀に砂や蔕(へた)が入っていることが米国産に比べ多いように思いました。欧米人は、レーズンのような天然の食物に対する考え方は、日本人と若干異なっていますから、少々のへたや砂は使用又は菓子パン等の製造の過程で除去すればよいと考えておりますから、彼等はこの点に関しては寛大に考えており、日本のパン業者や菓子業者とは、少々考え方がことなります。私が輸入した場合は、この点に最大限の注意を払って出荷業者を選定しなければなりませんでした。レーズンパンのレーズンの中にぶどうの蔕(へた)が入っていたがため、歯が折れたとクレームされた経験が稀にありました。現在では、製造物責任損害保険が任意に掛けられますし、製造業者および輸入業者に保険を掛けることを取引条件の中に入れることが常識になっています。消費者保護が当たり前になっていますが、その分コストも高くなっていることでしょう。